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「朝起きてゲームして、食べもの注文してまたゲーム…」トレーニング嫌いの角田裕毅を変えたある出来事とは《成長著しい2年目》
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2022/05/27 06:00
F1参戦2年目にして着実に成長する角田。スペインGPまでの6戦で、入賞3回、最高位は7位
昨年をそう振り返る角田を改心させたのは、1年目に味わったF1マシンの強烈な横G(横方向にかかる重力加速度)だけではない。そこには、チーム代表のフランツ・トストの無言の喝があった。
昨年のシーズン前半に、角田はイギリスからアルファタウリの本拠地であるイタリアのファエンツァに移り住んだ。ある日の朝のこと、トレーニングしようとしていたとき、10kmのランニングをして帰ってくるトストと出会った。60歳を過ぎて、いまなお自分を律しているチーム代表を見て、角田の心が動いた。しかし、シーズン中は体重を大きく変化させることができないため、本格的な肉体改造はシーズン終了後となった。
「コーナーで横GがかかるF1では首のトレーニングは必須だということを昨年は痛いほど感じました。今年は、そうならないように首のトレーニングを集中してやりました。トレーナーには僕が住んでいるイタリアの家に泊まってもらって、毎日やっていました」
そう言ってトレーニングを振り返る角田の首はひとまわり太くなっていた。
「1ポイント」に秘められた価値
こうして迎えた今年のスペインGP決勝は、レーススタート時点で36℃と高温だった。これは前戦マイアミGPの33℃を上回り、今シーズン最高。加えて舞台となるカタロニア・サーキットは高速コーナーが点在しているため、激しい横Gによる体力の消耗が著しいコースとして有名だ。それでも13番手からスタートした角田は、攻め続けた。追い抜きが難しいスペインGPで、角田は何度かオーバーテイクを披露し、10位でフィニッシュした。
レース後、ガレージ裏に戻ってきた角田は、両膝に手をついた後、左肩を労わりながらレーシングスーツのファスナーを下ろした。そこには角田がこの1年間で逞しくなったからこそ味わえる、全力で戦った充実感が垣間見えた。
「マイアミも暑くて厳しかったんですが、戦っているポジションがマイアミよりも上で集中力が全然違っていたので、そういうことも含めると、今回がいままでで一番きついレースだったと思います」
そう言って笑う角田の走りを、レース後、最も喜んでいたのがトストだった。
「予選でのマシンパフォーマンスを見れば、ユウキが獲得した1ポイントは、この週末にわれわれが得られる最大限の成果だった」
たった1ポイントだが、そこには角田がF1ドライバーとして得た経験と成長が凝縮され、角田がいままで獲得したどんな1ポイントよりも重く、輝いていたように見えた。
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