炎の一筆入魂BACK NUMBER
「セは選手が縛られているというか、形がある。でも、パは…」選手を“育てない”小窪哲也コーチがカープで描く新たな指導者像とは
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2022/05/24 11:04
急な三塁コンバートにも関わらず、小窪コーチとの取り組みが奏功し、今季も打撃好調の坂倉
10年目の今季初めて開幕スタメンを勝ち取った上本崇司は、小窪の何気ない言動が選手の支えになっていると感じている。
「親身になってくれる。誰に対しても自分のことのように思ってくれる。特に若手にとっては大きいんじゃないかなと思います」
不安や不満、迷いを吐き出させることで下を向かせない。開幕から広島野手陣に日替わりヒーローが生まれる背景には、そんな関係性があるからかもしれない。
自由契約で得た貴重な経験
広島首脳陣の中で、小窪も例に漏れず、広島で13年プレーした生え抜きだ。広島を離れた1年の経験が、指導者としての第一歩に大きな影響を与えている。
「カープでの13年とは違う景色が見えた気がします。いろんな人と出会えたことが大きかった」
20年オフ、コーチ就任を打診された広島から自由契約を選んだ。先が見えない日々の中、どのように考え、どう立ち向かい、取り組んでいくのか——。結果以上に、過程の重要性を痛感した。プロではない独立リーグでの日々を経て、千葉ロッテでプレー。プロとアマ、セ・リーグとパ・リーグという異なる世界を生きた1年は、年数以上に濃い時間だった。
シーズン開幕前、セ・リーグとパ・リーグの違いについて聞いた際には、「言葉にするのは難しいですけど」と言葉を選びながら表現してくれた。
「セ・リーグは、選手が縛られているというか、形がある。でも、パ・リーグは形がない」
指名打者制の有無などの違いもあるが、枠にとらわれずに選手を見る視野はそこで得られたのかも知れない。
広島は、24日から鬼門の交流戦に臨む。昨年は交流戦直前に発生した新型コロナのクラスターの影響もあり、3勝12敗3分けと大きく負け越した。
「何とか上位にいくには交流戦を乗り越えないといけない。それを分かっている選手はいるし、『ここだ』と言いながらやっていきたい」
パ・リーグ野球を肌で感じた新コーチとともに、22年広島の真価が問われる3週間が始まる。
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