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「セは選手が縛られているというか、形がある。でも、パは…」選手を“育てない”小窪哲也コーチがカープで描く新たな指導者像とは

posted2022/05/24 11:04

 
「セは選手が縛られているというか、形がある。でも、パは…」選手を“育てない”小窪哲也コーチがカープで描く新たな指導者像とは<Number Web> photograph by JIJI PHOTO

急な三塁コンバートにも関わらず、小窪コーチとの取り組みが奏功し、今季も打撃好調の坂倉

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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 現役時代の4から変わった背番号、89の数字が心なしか、小さく見える。

 1年ぶりにコーチとして広島に復帰した小窪哲也内野守備走塁コーチは、広島首脳陣の中でもあまり目立たない存在だ。練習中に声を張り上げるわけでもなく、選手を叱り飛ばすこともない。ベースコーチでは得点に直結する三塁ではなく、一塁を担当。試合後、報道陣からコメントを求められることもあまりない。それでも、下馬評が高くなかった中で、セ・リーグ3位で交流戦を迎える広島の重要な存在のひとりとなっている。

 12球団の中でも、広島は生え抜きの首脳陣が多い。ゆえに伝統の広島野球の流派を継承するような指導が主流となる。そんな広島にあって、小窪は珍しいモチベータータイプといえる。さまざまな練習法やアイデアを出して16年に強力打線を作り上げた当時の石井琢朗打撃コーチ(現DeNA野手総合コーチ)ともまた違う、新たなコーチ像を描いているように映る。

二人三脚で挑むコンバート

 たとえば、今季のチームの奮闘ぶりと姿が重なる“サード坂倉”は小窪コーチとの二人三脚によって、成長している。

 坂倉将吾は昨季、本職の捕手と一塁の併用でリーグ2位の打率を残したにもかかわらず、昨季終了後に突然三塁コンバートを告げられた。結果を残したシーズン直後の通告、さらに捕手への強いこだわりから戸惑いを隠せないでいた。本格的に取り組むはずだった一軍春季キャンプはケガで不参加。十分な準備期間もないまま三塁先発で開幕を迎え、慣れないポジションでの奮闘は今も続く。

 5失策はリーグワースト1位タイ(5月23日時点。数字は以下同様)。グラブに若葉マークをつけたようなサード初心者とはいえ、ミスは許されない。これまでなら叱られ、反省を促す檄から這い上がることが求められたかもしれない。ただ、小窪コーチは当たり前のように、頭を抱える背番号31に寄り添ってきた。

「若いときは『何回言わせるんだ』『さっき言っただろう』と言われたけど、そういうのは止めよう。何回も言うことが自分の仕事なのかなと」

 選手と向き合い、言葉を省くことはしない。一方的に伝えるのではなく、選手の心の中に隠れた本音を探る。自分の形にはめるのではなく、選手個々に合った形を探る。対話を重ねながら、互いに成長していっているようにすら感じる。

【次ページ】 広島に新風を吹き込む新たなコーチ像

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