炎の一筆入魂BACK NUMBER
「セは選手が縛られているというか、形がある。でも、パは…」選手を“育てない”小窪哲也コーチがカープで描く新たな指導者像とは
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2022/05/24 11:04
急な三塁コンバートにも関わらず、小窪コーチとの取り組みが奏功し、今季も打撃好調の坂倉
「テツさんとは良いことも悪いことも話をさせてもらう。毎日毎日、話をしながらここまでできている。寄り添ってくれる、テツさんだったからやれているのかもしれない」
三塁での出場数がチームトップの31試合となった坂倉の言葉が、指導法が間違いでないことを証明している。
シーズン序盤、不振に陥った小園海斗に対してもそうだった。打率が1割台に低迷する中でも、口酸っぱく言い続けたのは遊撃手としての姿勢だった。
「小園はもうショートのポジションで内野の要。打てなくても価値のある選手。打撃状態は試合に出ていれば、戻ってくる。ただ、沈んだ気持ちを守備のときに出してしまうと、その(先発出場の)権利は得られない。隙を見せないように」
打撃で振るわなくても、菊池涼介と組む二遊間の守備への切り替えを徹底させてきた。今では打率も2割半ばまで上げている。
広島に新風を吹き込む新たなコーチ像
多少の浮き沈みを繰り返しながら半年以上をかけて戦うプロ野球ペナントレースにおいて、小さなことが大きな成果を生むこともある一方で、些細なことからチームが崩れていくこともある。選手も同様だということは、現役時代に感じてきたことだった。
「僕の現役のときと違って、できれば選手を1人にさせないようにしたい」
コーチの成果は指導した選手の結果にあると思われがちだ。指導の熱量も自然と選手への期待値と比例するのかもしれない。ただ、小窪は「コーチが選手を育てる」とは表現しない。
「少しでも選手の役に立てれば。僕らは手伝うことしかできない」
育つも、殻を破るも、選手次第。ただ、必ずその方法があると信じて、一緒に最善の道を探り、そして導くのが自分のできることだと捉えている。
コーチとしての権限や威厳を振りかざそうとはしない。春季キャンプでは菊池に若手特守のサポート役を頼み、ベンチの悪い空気を選手が締める必要性を感じれば影響力のある会沢翼に声をかける。小窪がコーチとして目立たないのは当然。広島のコーチとして新たなコーチ像を描いている。