最初来なかった三浦は、施術で驚きの表情に

「そこで僕が何をしなくちゃいけないかというと、璃来ちゃんのコンディションを整えること。でも彼女はまだ若いので、怪我の怖さを知らない。最初は『大丈夫です』と言って一緒に来なかったんです」

　木原選手と相談し、無理に来させるわけにもいかないのでチャンスを待った。

「見てわかったんですが、彼女は身体のコンディションがすごく良い。関節が柔らかいし、ついている筋肉も良い。これは痛い痛くないの判断だったら、治療には来ないだろうなと思ったんです」

　そこで二人で一緒に来てもらい、床の上でペアの動きをやってもらった。調子が良くないというスロウジャンプで、ポイントは「ここ！」という姿勢で止めた。

「木原君は、『璃来ちゃんの腰が持ちやすい位置に来ない』と言う。璃来ちゃんは、『エントリーのポジションがきつい、腰が落とせない』と言う。動作で見せてもらったら、あとは簡単でした。その動作はどこを使っているのかわかるので、その筋肉を緩めてあげた」

　施術を受け終わると、三浦選手ははっと驚いた表情を見せたという。

　サルコウの調子が悪い、トウループの調子が悪いなど、それぞれつまっている場所、疲れがたまっている場所が違う。多くのスケーターを見てきた経験から、触ればわかる。

「今日は、トウループたくさんやった？ と聞くと、『どうしてわかるんですか！？』と驚かれる。こうして少しずつ信頼関係を築いていきました」

2021年の2人の演技　©Getty Images

「彼らの幸せそうな雰囲気。あれは嘘がない」

「あとは璃来ちゃんの試合経験だなと思っていました。8年間身体が動かなかった木原君が動けるようになり、璃来ちゃんのコンディションが良くなって、試合に出れば結果が出るだろうというのはわかっていた。これからは取材も、昨日まで素通りしていた人たちがいきなり寄ってくるから、と言っておいたんです」

　多くのスケーターを見てきた青嶋氏の経験あってこそのアドバイスだった。青嶋氏の予想通り、ストックホルム世界選手権で10位に入賞した彼らに一躍世界中の注目が集まった。その半年後、シーズン初戦のオータムクラシックで日本のペアとして初優勝。スケートアメリカで2位、NHK杯で3位と、破竹の勢いで成長ぶりを見せた。

「みんな、カナダに行って急にうまくなった、と言いますが、僕から見たらうまくなったんじゃない。前からうまい。でも木原君は、ずっと痛みに耐えていたんです。彼らの今の滑る時の、あの幸せそうな雰囲気。あれは嘘がない。知り合いのカナダ人に、彼らの演技を見て感動して涙が止まらないと言われました。下心なしに行ったから、ジャッジの心も掴めたんでしょう」

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