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銀次34歳が楽天“代打の切り札”になるまで…Mr.Children『蘇生』に重ねた苦悩の日々「その時がダメでも生き返れるよって」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2022/05/16 17:03
楽天“代打の切り札”として活躍する銀次34歳。ここ2年の苦悩の日々から、いかに復活を遂げたのか?
「30を過ぎれば体の衰えっていうのは感じやすくなってくるんで、そこを頭でカバーする。マイナス要素をプラスに変えていかないと。長くやれている選手っていうのは、そういう部分があるじゃないですか」
頭とは、言い換えれば野球を考える能力だ。
銀次がインスパイアされたのは、渡辺直人(現一軍打撃コーチ)、そして当時楽天に在籍していた藤田一也、嶋基宏のベテラン3人の存在だった。
「直人さん、藤田さん、嶋さんはスタメンじゃなくても的確な声を出しているっていうか。試合の展開とかを見ながら、先を冷静に予測できたり。本当に野球を知ってるから、『なるほどな』って思わされるところが多かった。だから自分も、3人にはいろんなことを聞いたし、学べた部分はあったと思います」
代打としての出場が増えてきた今シーズン、銀次はその経験が「かなり生かされてます」と、3人に感謝するように声を張った。
難敵・モイネロ攻略のウラに銀次の“仕掛け”
いつ呼ばれるかわからない。でも、焦りはない。相手ピッチャーの状態、打線の流れ、スコア……ゲームが始まりしばらくすると、銀次の回路が活発になる。「そろそろかな」とスイングルームに向かう。鏡の前で構え、バットを振る。1回、2回、3回。「いい感じだ」と思えば、そこでスイングを止める。
いざ打席に立ってからもむやみにバットを振ることはない。
4月30日のソフトバンク戦がそうだった。4点を追う9回。2アウト一、三塁で切り札が打席に立つ。初球、守護神リバン・モイネロのスライダーが暴投となり3点差。なおもランナー二塁とチャンスが継続されていても、銀次が打ち気に逸ることはない。3ボールから2球連続でストライクとなっても動じず、フルカウントからの6球目をファウル。そして7球目、内角ギリギリのストレートを見逃しフォアボールを選んだ。
この直後に西川遥輝の3ランで同点とした楽天は、延長11回にサヨナラ勝ちを収めた。目立つことはない。ただ、勝利へのタスクを静かに全うしたのは紛れもなく銀次だった。
「モイネロはいいピッチャーですけど、有利になるカウントに持っていけたのがデカかったかなって。代打っていうのは、こっちから仕掛けていかないといけないんで、それができたかなって思ってます」
心と体、そして頭がシンクロする。