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銀次34歳が楽天“代打の切り札”になるまで…Mr.Children『蘇生』に重ねた苦悩の日々「その時がダメでも生き返れるよって」
posted2022/05/16 17:03
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
旋律に手拍子が共鳴する。
楽天生命パーク宮城にミスチル――Mr.Childrenの『蘇生』が流れると、ファンは最大限の熱量で銀次を迎え入れる。
何度でも、何度でも。
印象的なサビに乗せて、楽天ひと筋17年のチームの象徴が、ネクストバッターズサークルから悠然と自分の持ち場へと向かう。
打席に足を据える。スタンスの広さ、両足つま先の角度。ほんの些細な位置にも神経を配る。「よし、ハマった」。居心地がよければ、スイングに移る直前のトップの位置が理想的な証拠であり、鋭くバットを振り抜ける。
楽天“代打の切り札”に銀次34歳
2022年シーズンの銀次は、代打として存在感を放つ。8打数6安打、4打点(成績は5月14日現在)。キャリアの半分以上でレギュラーだった男が、切り札としての重責を託され、全うする。完全に慣れてはいないし、スタメンへのこだわりを失ったわけでもない。しかしこの成績からも、すでに「代打の神様」の領域に近づきつつあるのは明白である。
「1打席に賭ける準備っていうのは、すごく重視してやってます」
レギュラーだった期間が長ければ長いほど、代打稼業への転身当初は「難しかった」と苦心を綴るバッターは多い。
彼らは試合開始からずっとベンチにいるということが少なかった。したがって、最初は戸惑いが勝る。どのタイミングでスイングルームに向かえばいいのか、どれだけバットを振ればスタメンの時のように体が温まるのか? 模索や呻吟を繰り返しながら代打としての自分を形成していくのである。
なぜ、「代打」に順応できたのか
ただし、これらはマジョリティの傾向であって銀次に該当するわけではない。彼に関してはむしろ、比較的、代打として試合に入ることを違和感なく受容できたはずなのだ。
なぜなら、そのための準備の「準備」をしてきたからである。
3年ほど前の話だ。31歳だった銀次は、この頃から「長く現役生活を続けられるように」と、フィジカルトレーニングをはじめ長寿のためのプランニングに精を出している。
その過程でより頭を鍛えるようにもなった。