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格闘技PRESSBACK NUMBER
「柔道三段、四段の腕を折って勝つのは痛快だ」“格闘技界のレジェンド”中井祐樹を北大で七帝柔道へと誘った「血湧き肉躍る檄文」とは
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2022/05/13 17:00
国内外の格闘家からリスペクトされる中井祐樹氏。2013年にはアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラらの師匠ヒカルド・デラヒーバの引退試合の相手も務めた
反対にスタンダードな柔道のキャリアが長い経験者ほど、七帝柔道にアレルギー反応を示す傾向もあった。「こんなのは柔道じゃない!」と吐き捨て、いなくなってしまう者もいたという。
「強い人が辞める例はいっぱいありました。立ち技がある柔道とは違うわけだから、『何、この柔道?』という感じになってしまう。それが普通だった」
「もうダメだ…」白紙答案で試験会場から“脱走”
七帝柔道の稽古を積み重ねることで、充実感は膨らむ一方だったが、中井は「それ以外の学生生活は最低だった」と思い返す。講義に出席しているうちに、「俺はいったい何をやりたいのか」と苦悩し始めた。
「結局、自分はマークシートしかできない。丸暗記が得意なだけで、ものごとの本質的な部分は全く考えないで能天気に生きてきただけだ、とわかってしまったんですよ」
法学に関する論文試験のときには、学問への情熱や深い洞察があるわけではない自分に嫌悪感すら覚えた。その論文を一文字も書けないで、試験会場から出てきてしまったという。
中井は途方に暮れた。
「ああ、俺はもうダメだ……。柔道部がなかったら、俺はここにいてはいけない」
100点満点が当たり前だった秀才にとって、白紙答案は“事件”だった。
「ショックだったというより、自分が何をやりたいのかがハッキリわからない。そのことに『えぇ……』という感じで混乱していました」
試験を抜け出した中井は、札幌のメインストリートである西5丁目通りを走った。
「大学を脱走した感じでしたね」
どの方向に行けばいいかもわからなかったが、とにかく明日に向かって走りたかった。<後編へ続く>