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《体操女子五輪代表21歳の引退》コーチの母に「やめたい」と漏らした手のしびれ… “涙の1分半”を終えた畠田瞳が明かす次の夢
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2022/05/12 06:00
21歳の畠田瞳は体操全日本選手権・個人総合での最後の演技で涙した
音楽が鳴り終わる前からこみ上げていた感情は、締めのポーズを決めると、涙になってあふれ出した。フロアを下りると、真っ先に友紀子さんの元へ駆け寄る。言葉を掛け合う必要などなかった。2人とも、泣きながら抱き合った。
千愛は言う。
「やめると聞いた後、全日本に出るということだけでも私は驚いた。この期間で技を戻して、ここまで完成度を戻せたのは、お姉ちゃんしかできないと思う」
予選後の場内インタビュー。畠田は開口一番、涙声で観客に感謝した。
「応援に来てくださった皆様、こんな演技しかできませんでしたが、最後まで温かいご声援をいただき、本当にありがとうございます」
家族の存在の大きさを問われると、こう言った。
「本当に大きい存在。家族なしでは本当に、絶対にここまで来られなかった。畠田家に生まれて来られて、こんなにも幸せなことはない」
「母の指導法は自分に合っていたし……」
少し落ち着きを取り戻した後、取材エリアで自らの競技人生を振り返った。
「自分で言うのもあれなんですけど、今まで努力してきたのは感じていて。私から努力を取ったら本当に何もない選手だと思う。これまでの成績を残せたのは、全て努力のおかげと思う。ただ数をこなすのではなく、試合で失敗しないための努力を続けていくことで、競技成績を残せたんじゃないかな」
正しい方向に努力することをサポートしてくれたのが、両親だった。
「技のやり方が分からない時には、父に試合会場や家で教えてもらった。一つ一つの細かい部分が、自分の競技生活につながっていたと思う。オリンピックや代表選考会の前には必ず応援メッセージをくれたし、力になった。母の指導法は自分に合っていたし、教え方もすごくいいなと思う。今まで教えてもらったことを、自分が指導者になった時に教えていきたい」
今後は妹の練習に付き合いながら、指導者への道を志す。大学院への進学や米国留学、ロシアの指導法を学ぶなど、青写真を描いている。今やりたいことは? と尋ねると、21歳らしい答えが返ってきた。
「とりあえず、運転免許を取りにいくことは決めています」
今後は体重管理も気にせず、好きな物を好きなだけ食べられるのでは?
「それはもう、本当にそう思います(笑)。今回も出場が1種目だけなので練習量が減って、食べる量はいつもと一緒なのに毎日毎日『太った』と言われ続けて……。あと1週間、試合が遅かったら(体型が)もっと爆発していたと思います」
体操を語る時とは少し違う、柔らかい笑顔がはじけた。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。