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ラストマッチで“キャリア最高のKO勝利”…レジェンド高阪剛(52)が語った“日本MMA界”への提言「今は戦績がすごく大事。ただ…」
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byRIZIN FF
posted2022/05/04 11:02
自身の引退試合で上田幹雄と対戦し、劇的なTKO勝ちを収めた高阪剛
「世界中の化け物たち、ありがとう!」
試合後の引退セレモニーで高阪は、マイクを握ると、この試合を実現するために動いてくれた関係者や、長年支えてくれたファンや家族に繰り返し感謝の言葉を述べていった。
その感謝の言葉は、これまで対戦してきた世界の強豪たちにも向けられた。「今まで試合したマーク・ハント、ミルコ(・クロコップ)、(アントニオ・ホドリゴ・)ノゲイラ、ランディ・クートゥア、ペドロ・ヒーゾ、リコ・ロドリゲス、バス・ルッテン……挙げるとキリがないですけど、世界中の化け物たちにボコボコにされ、『もっと強くならなアカン!』と思って強くなれました。世界中の化け物たち、ありがとう!」
ここに名前が挙げられた選手たちは、そのほとんどが高阪がボコボコにされ敗れた相手ばかりだ(皇帝エメリヤーエンコ・ヒョードルの名前を言い忘れたのは「あまりにもボコボコにされすぎて、自分の中で黒歴史になってるのかも(笑)」とのこと)。
あえてボコボコにされて敗れた相手の名前を挙げたのは、高阪に次のような思いがあったからだ。
「自分のキャリアを振り返ると、負けからもらったものがすごく多いんですね。負けたり失敗したことで見つかったことがたくさんあるし、見つからなかったとしても『クソーッ! もっと強くなってやる』と気持ちを奮い立たせてくれた。負けることで成長させてもらったんです」
「今のMMAは戦績がすごく大事。ただ…」
そういった思いがあるからこそ、これからの若い選手たちにこうエールを送る。
「自分が若い頃はMMAというジャンル自体が未成熟だったこともあって、トライ&エラーの連続だったんですけど、いまの選手は最新の技術をそのまま学べるので成長もすごく早い。でも、エラーした時の対処の仕方って、実際にエラーしてきた人間じゃないと、本当の意味でわからないと思うんですよね。試合の中でうまくいかないことって絶対に起こるので、それが起こったとき、あの切迫した修羅場の中で、『え~っと』って考えてたらやられちゃうんです。
今のMMAは戦績、レコードがすごく大事になっています。とにかく負けが付くと、次のステップや契約に響いてくるので。ただ、いい意味で負けを恐れないでほしいですね。負けないために闘いがこぢんまりしてしまったら、最終的に世界の強豪には勝てない。だから思い切ってやってほしいなって思います。そして今回対戦した上田くんも自分との試合経験が何かの役に立ってくれたらなって思いますね」
引退後のプランとは?
最後に現役を引退した今後について聞いてみた。
「もう試合をすることはないですけど、もちろん練習は続けていくし、後進の指導も含めて基本的にこれまでとそれほど変わらないとは思うんですよ。ただ、自分はいろんな人の力があってここまでやってこれたので、今後はもらった恩をどんどん還元していかなきゃいけない。
恩をもらった人に返すわけにいかないので、それはこれからの選手たちや、格闘技に携わるすべての方々にどれだけ戻していけるか。これからはそれがすごく大事になる。なので今後は後進の指導や、格闘技の解説でファンの人にわかりやすく伝えていくこともそうですけど、とくに日本のヘビー級選手をなんらかの形で押し上げる力になれたらと思いますね」
“格闘技界の賢者”と呼ばれた高阪剛。これからもますます日本の総合格闘技界の発展に貢献してくれることだろう。