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「俺の方が強い」朝倉未来の挑発も「あっ、そうなんですか」と柳に風… “泣き虫王者”牛久絢太郎がRIZINフェザー級の中心になった日
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/04/29 11:04
4月17日の『RIZIN.35』で斎藤裕と再戦した牛久絢太郎。見事にRIZINフェザー級のベルトを防衛し、リング上で大粒の涙を流した
初防衛後、報道陣に逆質問「もう大丈夫ですよね?」
朝倉を破った斎藤からTKO勝ちを収めたことで、格闘技界恒例の“大晦日のお祭り”からも声がかかるかと思いきや、そういう展開にはならなかった。RIZINからのオファーが来る前に、同じ12月にDEEPフェザー級王座の初防衛戦を行うことが決まっていたのだ。結局、大晦日のRIZINにおけるフェザー級の主役は、朝倉と斎藤だった。
斎藤に一度勝っただけでは、牛久の人生が大きく変わることはなかった。RIZINフェザー級戦線は朝倉と斎藤、そしてクレベル・コイケを軸に展開すると思われていた。せっかく王者になったというのに、牛久は脇役扱いのままだった。
牛久を見る世間の目が劇的に変化したのは、今回のリマッチで斎藤を返り討ちにしてからだろう。それでも、牛久は「まだ自分は必要とされていないのではないか」という疑念を抱いていた。
試合後、RIZINの榊原信行CEOからチャンピオンベルトを腰に巻かれたときには、ストレートな気持ちを投げかけた。
「僕は敵ではないです」
榊原CEOは笑顔とともに返した。
「敵だと思っていないよ」
その後、インタビュースペースに現れたときも牛久はまだ半信半疑だった。
「これで文句なく王者と胸を張って言える感じでしょうか?」という質問が飛ぶと、牛久は相槌を打ちつつ、こう答えた。
「もう大丈夫ですよね? 逆に(お聞きしたい)」
このとき、牛久は初めて自分が王者として認められたと安堵したのではないか。初防衛戦について率直な感想を求められると、ようやく相好を崩した。
「この半年間、本当に自分を追い込んで頑張ってきたので、この勝利が何よりうれしい」
大言壮語をよしとしない彼が唯一自慢するもの──それは尋常とは思えない練習量だ。週7回、1日2部練、3部練は当たり前。試合が決まれば、横田代表から見ても「これ以上やったら死ぬ」というレベルで追い込みをかける。
そのせいだろうか。今回、初防衛戦に臨む牛久の顔つきには明らかな変化が見られた。お世辞を抜きにして、王者としての“艶”が出てきたのだ。チャンピオンになることで、さらに大きく化けるファイターがいるが、牛久はその典型かもしれない。
さらにRIZINのチャンピオンベルトを持つことで、様々なプレッシャーがあったことを打ち明けた。
「逆にそのプレッシャーが自分を強くしてくれたと感じています。だからベルトには本当に感謝しています」