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「俺の方が強い」朝倉未来の挑発も「あっ、そうなんですか」と柳に風… “泣き虫王者”牛久絢太郎がRIZINフェザー級の中心になった日 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2022/04/29 11:04

「俺の方が強い」朝倉未来の挑発も「あっ、そうなんですか」と柳に風… “泣き虫王者”牛久絢太郎がRIZINフェザー級の中心になった日<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

4月17日の『RIZIN.35』で斎藤裕と再戦した牛久絢太郎。見事にRIZINフェザー級のベルトを防衛し、リング上で大粒の涙を流した

朝倉未来がさっそく「俺の方が強い」と宣戦布告も…

 前回は飛びヒザ蹴りが勝負のキーポイントとなったが、今回はハイキックの応酬が第1のポイントとなった。

 2R、斎藤が右ハイキックを放つと、牛久はこれを左腕でブロックした刹那、ワンツーを放ち、右のガードが下がっていた斎藤に左ハイを一閃。この一撃を受けた斎藤は尻もちをつくようにダウンを喫した。この日の牛久は、構え方をサウスポーからオーソドックスに変えるなど頻繁にスイッチしていたが、ハイを決めたときの構えはオーソドックスだった。もともと左右どちらでも構えることができるので、対戦相手によってスイッチ戦法は有効な手立てとなる。

 第2の勝利のポイントは、3Rに斎藤がワンツーで攻め込んできたところをブロックし、さらにもう一度アタックしてきた相手に対して左フックをクリーンヒットさせた場面だろう。また、前回は使っていなかった関節蹴りを多用することで、牛久は斎藤の出鼻を挫くことに成功していた。観客の目に届きづらい、細かな場面でも工夫を怠っていなかった。

 リング上でインタビューを受けている最中、牛久はうれし涙を見せた。この姿を見た朝倉はTwitterを通じて「牛久、男が簡単に泣くなよ」と呼応した。これぞSNS時代の宣戦布告。朝倉は言葉を続けた。

「正直なところチャンピオンより俺の方が強いと思うね」

 未来のツイートについて記者から感想を求められると、牛久は「あっ、そうなんですか」と他人事のように呟いた。

「確かにそうかもしれない。僕にもいろいろ込み上げるものがあって、最近はちょっと涙腺が緩いかもしれない(笑)」

 SNSのスピード感も朝倉未来の甘噛みも、牛久にとっては柳に風。「王者として認めてもらった」と思えたことも大きいが、牛久は自分のスタンスやリズムを1ミリたりとも崩そうとはしなかった。“次”への期待より、現在を噛みしめていた。

 勝負が決まった直後の、斎藤とのやりとりがある。先に会見に臨んだ斎藤が「それは向こうに聞いて」と口を噤んだことで、牛久がカミングアウトした。

「泣かないで、泣かないで、チャンピオンなんだから、もっと胸を張って、と言ってくれました。優しい方だと思いました」

 今後は“泣きの牛久”として浸透するか。一夜明けて、王者は豊橋出身の“路上の伝説”の挑発に、生まれ育った地元の名前を出して反応した。

「足立区は泣くんですよ!」

 次戦はクレベル・コイケの挑戦を受ける可能性が高い。しかし、もし仮に朝倉と対峙したら、牛久は斎藤以上にファイターとして大化けするかもしれない。

 初防衛の日、泣き虫な王者はインタビュースペースで「もう大丈夫ですよね?」と報道陣に問いかけた。その場にいた全員が、同じ言葉を贈りたかったはずだ。

 もう大丈夫だよ。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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