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《F1》大不振のハミルトン&メルセデスに起こった“口論事件”…当事者たちがそれぞれ謝罪した本当の理由
posted2022/04/29 17:01
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
ヨーロッパラウンド開幕戦となった第4戦エミリア・ロマーニャGPで、ちょっとした事件が起きた。
予選Q2の最中に、メルセデスのルイス・ハミルトンがまだセッションが終了していないにもかかわらず、コクピットを降りてガレージ奥にいたトト・ウォルフ代表へ近づき、何かを訴えていた。ハミルトンはヘルメットを被ったままだったため、その表情はうかがえなかったが、ウォルフが厳しい表情でハミルトンへ何かを言い返していた様子から、激しい口論が交わされていたことは想像に難くなかった。それは、今シーズンのメルセデスを象徴するような光景だった。
この日、メルセデスはハミルトンだけでなく、チームメートのジョージ・ラッセルもQ2で脱落した。メルセデスが2台そろってQ3へ進出できなかったのは、12年の日本GP以来、10年ぶりの大不振だった。
ウォルフとの口論の内容を尋ねられたハミルトンは「内輪のことを公にするつもりはない」と口を閉ざした。そのため、予選がまだ終了していないのに、ハミルトンがコクピットを降りて自ら戦いを放棄したことをウォルフが咎めていたのではないかという憶測が飛んだ。しかし、ウォルフはそれを否定した。
「ルイスは、『このマシンは1周のタイムアタックでなかなかパフォーマンスを引き出せない』と訴えていただけだ」
F1界の絶対王者が陥った不振
ハミルトンがコクピットを降りたのには、理由があった。この日の予選は雨絡みで、Q2が開始してしばらくはドライタイヤでアタックできていたが、全車1回目のアタックを終えた直後に雨が降り出して、2回目のアタックでドライタイヤで走行するのは不可能な状況となっていた。この段階でのハミルトンの順位は13番手。10番手との差は約1秒もあり、雨で滑りやすくなったコンディションでそれを上回ることは事実上、誰が見ても不可能な状況だった。
昨年までのハミルトンなら、もう少し冷静だったのだろうが、今シーズンはここまで大苦戦。第2戦サウジアラビアGPではQ1落ちの屈辱も味わっていた。史上最多タイの7度の王座に輝き、昨年も最終戦まで熾烈なタイトル争いを繰り広げたハミルトンが落胆し、Q3進出を早々に諦めたくなる気持ちも理解できないわけではない。
ただし、スポーツは何が起きるかわからない。実際、チームメートのラッセルはQ2が終了するまでコクピットにとどまっていた。