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《F1》大不振のハミルトン&メルセデスに起こった“口論事件”…当事者たちがそれぞれ謝罪した本当の理由 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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posted2022/04/29 17:01

《F1》大不振のハミルトン&メルセデスに起こった“口論事件”…当事者たちがそれぞれ謝罪した本当の理由<Number Web> photograph by Getty Images

今季4戦を終え、開幕戦の3位が最高位といまだ勝利のないハミルトン。現在のランクは7位で、同僚のラッセル(4位)に後れをとっている

 また、モータースポーツはドライバー同士が競り合う個人競技であると同時に、チーム同士がしのぎを削るチームスポーツでもある。そのチームで頂点に立つのはチーム代表であるのは間違いないが、ドライバーもまた強い影響力を持つ。そのドライバーがセッション終了前にコクピットを降り、ガレージ内でチーム代表と口論することは、たとえハミルトンの主張が論理的に正しかったとしても、許容される行いではなかった。ウォルフが激しく苛立っていたのは、そのことだったのではないだろうか。

 それでも、ウォルフはハミルトンを公に批判しなかった。そこには、いまここでまともにドライバーと喧嘩をしても状況は好転しないというウォルフなりの計算があったのではないか。

 というのも、ハミルトンと同じマシンを駆るラッセルは、厳しい状況にありながらも、今シーズンここまで安定した成績を残しているからだ。もちろん、ハミルトンがそのことに気がついていないわけはない。ならば、ハミルトンのプライドを傷つけずに奮起を促したほうが良い。指揮官の発言にはそんな意図が感じられた。

 レースでもポイント圏外に終わったハミルトンに、ウォルフはこう接した。

「このような結果に終わったことを心苦しく思っている。期待外れの結果に終わった責任は、われわれのマシンにある」

 すると、ハミルトンの心に変化が現れる。

「少なくともジョージはチームのためにポイントを獲得した。なのに僕はできなかった。だから、みんなに謝りたい」

 ハミルトンが予選とレースでともにトップ10圏外に終わったのは2009年以来、13年ぶり。ハミルトンは言う。

「あの年のマシンも、先頭から遠く離れていて、僕の経験でも最悪のシーズンだった。それでも、当時のチームは懸命に開発を行い、優勝争いができるまでに復活した。今年も、あのときとそんなに変わらない。僕はこのチームもまた、当時のチームに負けないくらいの可能性は秘めていると思うし、同じことをできると信じている」

 F1デビューシーズン以来、毎年1勝以上挙げているドライバーは、近年ではハミルトンしかいない。不可能を可能にすることができるのか。7冠王者の真価が問われる。

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