甲子園の風BACK NUMBER
センバツ準V近江「エース山田陽翔と自分の違いは何か」控え左腕が“決勝の先発”を直訴した理由…大阪桐蔭戦の夜に誓った約束とは?
posted2022/04/16 17:01
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph by
Nanae Suzuki
「林優樹(現・西濃運輸)を見て、今年、左ピッチャーが5人ほど入ってくるんですよ」
2年前のちょうどこの時期に、近江高校野球部の多賀章仁監督が嬉しそうに話していたことを思い出す。
2018年夏の100回大会で、4人の投手の巧みな継投で8強まで勝ち上がった近江の躍動は高校野球ファンなら記憶に新しいだろう。その中で際立っていたのが、当時2年生だった左腕・林の投球だった。
初戦の智弁和歌山戦は2番手で登板し、3回1/3を投げ無失点。3回戦では強打の常葉大菊川(静岡)を5回まで完璧に抑えるなど8回を投げ、1失点と好投した。次戦の金足農戦ではサヨナラ2ランスクイズで敗れたが、同じ2年生の捕手・有馬諒(現・関西大)とのバッテリーも話題を呼んだ。
今回のセンバツで“背番号9”をつけていた左腕・星野世那(3年)も、その林に憧れて入学した1人だ。星野は100回大会での近江の試合をすべて甲子園で観戦している。
「あんな小さな体で全国の強豪の打線を抑えられる。確実にしっかり追い込んで有利なカウントに持っていける球を持っていて、凄いと思いました」
林の動きを目で追い、夢を膨らませた。
左の先発候補として期待された星野
星野は130キロ台後半のストレートに、カーブ、スライダーなどの変化球も切れ味が鋭く、1年秋に背番号11をつけて初めてベンチ入りするなど、左の先発候補として高い期待を寄せられていた。
しかし、昨春の滋賀県大会3回戦の立命館守山戦では、先発した星野がピンチを作り、降板。バトンを受けた山田陽翔(当時2年)が痛打を浴び、敗れた。この敗戦によって夏の大会のシード権を喪失。途方に暮れるチームの中で星野は自責の念にかられた。
何とかたどり着いた昨夏の甲子園では、背番号10をつけてベンチ入りするも登板はなし。昨秋の滋賀大会ではケガで投げられなかった山田に代わって主戦級でマウンドに立ったが、準決勝の滋賀学園戦でサヨナラ打を浴びたのは星野だった。3位決定戦を制して出場した近畿大会でも2試合に先発するも、いずれもピンチを招いて途中降板している。