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「僕しか見ていない光景です」DeNA楠本泰史が誰もいないハマスタで目撃した、鈴木尚典コーチの“本気のティーバッティング” 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySankei Shimbun

posted2022/04/11 11:01

「僕しか見ていない光景です」DeNA楠本泰史が誰もいないハマスタで目撃した、鈴木尚典コーチの“本気のティーバッティング”<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

ベイスターズの切り札、楠本泰史。「レギュラー取り」を誓った今シーズンは、開幕からスタメンに抜擢され主に2番を任されている

「甘いボールがきたら1球目から強く振る自分のスタイルは崩さず、もし追い込まれたら1球でも多く投げさせて、フォアボールやデッドボール、内野安打でもいいので、何としてでも食らいつくことを意識しています」

 今を懸命にサバイブする姿勢。「以前よりも“嫌らしいバッター”になってきましたね」と言うと、楠本は少しだけかぶりを振った。

「いや、まだまだですよ。この間の阪神戦(4月6日)、延長のチャンスの場面(1死ランナー三塁)で打つことができませんでした。ああいった去年の代打のようなシチュエーションで結果を出せるようになると、もっと嫌なバッターだと相手に思ってもらえる。自分としては、とことん“嫌らしいバッター”を突き詰めていきたいですね」

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 チームプレーを優先させながらも、代打で見せていた勝負強さを発揮すること。楠本が求めるレベルは常に高いところにある。

スランプも救う恩師との“運命の再会”

 しかしながら今季は苦しいスタートだった。キャンプ中に行われた練習試合では5試合に出場し12打数1安打とまったく当たりが出なかった。レギュラー獲得のためアピールしなければいけない立場にも関わらず楠本はライバルたちに遅れをとってしまう。

 そんなとき声を掛けてくれたのが、今季から一軍打撃コーチに就任した鈴木尚典だった。じつは楠本と鈴木コーチには浅からぬ縁がある。楠本が小学生のとき所属していた横浜ベイスターズのジュニアチームで鈴木コーチは打撃指導をしており、ふたりは約15年の時を経て、選手と指導者として再会している。

 鈴木コーチは現役時代、1997年から2年連続して首位打者に輝いた“ハマの安打製造機”。1998年の日本一に貢献をした、ゾーンの内であればどんなボールであっても仕留め、全方向に打つことのできた稀代のバットマンだ。同じ左打者でバットコントロールに長けた楠本は、現役時代の鈴木コーチとどことなく似ていると以前から言われていた。

「人生で初めて同じ感覚の人に出会えたと思えたんです」

「キャンプを終え、ハマスタに帰ってきた最初の全体練習の後、じっくりとお話しさせていただいたんです。そのとき尚典さんから『おまえはあれこれ考えて打てるタイプじゃないから、自分の本能で打てると思ったボールを打ちに行け』と言われたんです」

 この言葉を聞いた瞬間、楠本の迷いは吹き飛んだ。同時にシンパシーを感じた。

【次ページ】 「人生で初めて同じ感覚の人に出会えた」

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