「僕しか見ていない光景です」DeNA楠本泰史が誰もいないハマスタで目撃した、鈴木尚典コーチの“本気のティーバッティング”

「迷ったら教科書を見ればいいし、教科書に訊けばいい」

　横浜DeNAベイスターズの楠本泰史は、確信を込めたトーンでそう言った。言語を超えた感性の共鳴。楠本は今シーズン、“運命の出会い”を果たしていた――。

レギュラー奪取を誓っても「欲だけで打席に入らない」

　昨シーズンは勝負どころの切り札として、代打で打率.295という数字を残し存在感を示した楠本。レギュラー取りを誓った5年目の今季、外国人選手の怪我もあり開幕からスタメンに抜擢され主に2番を任されてきた。

「毎試合出場できる喜びはあるのですが、使っていただいているぶん、何としてもチームの勝利に貢献したいという気持ちが強いんです。代打のときとは異なり、チームの役に立てる回数は間違いなく増えます。うちのチームは前後に素晴らしいバッターが多いので、まずは前にランナーがいれば進めて、いなければ何とか出塁して後ろに繋げることばかり考えていますね」

　言うまでもなく、1試合における代打の一打席とスタメンでの四打席では思考することは変わってくる。

「代打のときはチャンスで出ていくことが多かったので、ヒットを打って打点を挙げることばかり考えていましたが、今は自分が主役になりたい気持ちを抑えつつ、状況に応じてプレーするようにしています。欲はあるけど、欲だけで打席に入らないように」

　楠本は情念の男だ。常に満足をすることなく、誰にも負けたくないといった執念がにじみ出る、今どきの若手としては珍しいタイプである。ルーキーイヤーから取材をしていて、口調こそ冷静なのだが、ほとばしるような熱さを感じてならない。その楠本が、今は身を粉にしてチームプレーに徹している。

4月5日の対阪神戦にて、阪神・西勇輝のファウルフライを捕球する楠本　©️Sankei Shimbun

すべての写真を見る（5枚）

　難しい2番という立場。持ち前の打力を活かすべく積極的に打つこともあれば、カウントが苦しくなると粘って出塁をする。さらにチームの課題である走塁においては積極的にアクションを起こし、外野守備においてもハードなプレーを見せている。

「とことん“嫌らしいバッター”を突き詰めていきたい」

　今季はここまで打率.263、犠打はチームトップタイの2、盗塁もトップタイの3、出塁率は.341と、まだ打席数が少ない時期の数字ではあるが、それでも楠本の献身が見て取れる。

【次ページ】　「とことん“嫌らしいバッター”を突き詰めていきたい」