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竹原慎二「お前、今日負けたら引退だからな」元佐川急便・藤岡奈穂子46歳が“北新宿の四畳半”から女子ボクシングの第一人者になるまで
text by
たかはし藍Ai Takahashi
photograph byGetty Images
posted2022/04/08 11:00
昨年7月、藤岡奈穂子はロサンゼルスでWBA女子フライ級のベルトを防衛。日本の女子選手として初めてアメリカで世界戦に勝利する快挙を成し遂げた
「メキシコやドイツでも試合をしましたが、今は(ファイトマネーの)ゼロがひとつ違いますね。もちろん当時はどんな立場でも行く価値があると思っていたので、後悔はしていません。でも、いつかは必ずチャンピオンとして世界に出てやろうって思っていました」
果たして、その思いは現実のものとなった。アメリカでの統一戦を前に、藤岡は「今は自分で思い描いていたところよりも、上のところにいる」と感慨を口にした。
競技一本の選手はごくわずか…女子ボクサーの厳しい現実
現在、日本の女子プロボクサーの世界チャンピオンは、藤岡を含めると4人。藤岡はボクシングに専念して生活をしているが、同様に競技のみで生計を立てているのは、女子ボクサーの中でもわずか2、3人ほど。ほとんどの選手が、他の仕事とかけ持ちしながら競技を続けているのが現状だ。
東京五輪で女子フェザー級の金メダリストとなった入江聖奈選手は、プロへの転向はせず、アマチュアのまま引退する意向を示している。
藤岡自身も、日本の女子ボクシングが盛り上がらない理由として、「収入」が大きなハードルになっていると感じているという。
「ファイトマネーについては女子だけではなく、男子でもままならないところも多々あると思います。リスクと金額がなかなか見合わないというか、プロボクサーという生き方に魅力を感じないところもあるんでしょうね」
少し前までは、アメリカの大手プロモーター主催のリングに日本の女子選手が立つこと自体、夢のまた夢だった。しかし藤岡は、何度も海を渡って自ら市場を開拓した。アメリカでの試合をただただ指をくわえて待っていたわけではない。
パイオニアのつもりはないが、周囲からの期待は感じていた。アメリカでのタイトルマッチの扱いや、現地のファイトマネーの基準について「これが当たり前になったら、女子ボクシングの世界も変わってくるのかなとも思います」と語ったように、結果的に藤岡の存在が後進のロールモデルになる可能性は決して低くないだろう。