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《マスターズ連覇へ》松山英樹と早藤キャディは優勝が懸かった18番ホールで、なぜ笑った? 2人の絆を物語る驚きの助言「ふざけてください」 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byYoichi Katsuragawa

posted2022/04/07 11:04

《マスターズ連覇へ》松山英樹と早藤キャディは優勝が懸かった18番ホールで、なぜ笑った? 2人の絆を物語る驚きの助言「ふざけてください」<Number Web> photograph by Yoichi Katsuragawa

王者としてオーガスタに戻ってきた松山英樹。心強い相棒と共に連覇を目指す

「ドライバーで行って、フェアウェイにおける確率は40%あるかどうかというところ。30ydは曲げないといけない。しかも風は左からのフォロー。3Wだと右サイドのバンカーに入ってしまうので、5番ウッドかドライバーで迷っていた」

 まさにイチかバチかの場面。逡巡する松山に、早藤将太キャディは言った。

「ドライバーを持つなら、“ふざけて”ください。多少、ふざけないといけない」

 松山はニヤリとした。言葉の真意をすぐに理解したからだった。

「だよな……。ふざけないとアカンよな」

 全身をねじるようにしてドライバーを振りちぎった。普段はピタリと止まるはずのフィニッシュも崩れる、渾身の一振りだった。放たれたボールは左サイドの木の上をかすめ、左に大きな弧を描いて曲がっていった。

 結果的には右サイドのセミラフまで到達したが、飛距離は338ydを記録した。軽々2オンに成功し、2パットバーディ。ヘンリーがパーで終えたため土壇場で追いつき、直後のプレーオフに持ち込んだのだった。

「ふざけてください」。窮地でそう言った相棒の真意は何だったのか。

 早藤将太キャディが説明する。

「あそこは本当にふざけて、遊びのように打たないとフェアウェイに行かないんです。真剣にフックをかけにいったくらいじゃダメなんです。だから『普通に真面目に打ったら、そういう球は打てないよ』と。(自分たちは)ケタケタ、笑ってましたよね(笑)」

 そう思いを同じにしたからこそ、松山も笑った。

直前の後悔「コイツのことを信じられんかった」

 取り組んできたスイングチェンジの結果、ここ最近はボールが曲がりにくくなった。それは同時に「“曲げ球”が使いにくいスイング」でもある。

「去年までのスイングと今のスイングは違う。今年は真面目にフックを打ったらホントにダメ、かかり切らないと思った。(意図せずに)曲がってしまうことはあっても、自分で曲げに行くと、そこまでは曲がらない。多少“ふざけた”からこそ、あんなフィニッシュになるんです。ただ、飛ばすだけならああいうスイングにもならない」

 実は直前まで、松山の胸には少しの後悔があったという。2つ前の16番ホール、決めれば追いつくはずだった2m強の、フックラインのバーディパットを外していた。

「微妙なラインで。将太は『カップ半分、それ以上は切れないです』と言っていたが、僕にはどうしても切れるように見えた。自分の見た目、立ったときの(感じる)傾斜を優先して多少右に打ち出したんです。それでカップの右に外れた。『やってしまった。ここで、コイツのことを信じられんかった』って」

【次ページ】 兄弟のような2人が掴んだマスターズ制覇

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