「お金があれば贅沢はできます。でも、僕は幸せはお金で買えないと思っているんです。Jリーガーになる前は、僕もそれなりの稼ぎ（年収約1000万円）があり、それなりの贅沢はしていました。ただ、それで幸せだったかといえばそうではなく、お金に縛られてやりたいこともできないとどこか窮屈さを抱えていました。Jリーガーになるために、一度お金を捨てました。そしたら、お金があった時以上の価値ある経験をさせてもらいました。物欲はすっかりなくなりましたし、もし当時39歳だった僕がお金を求めていたら、Jリーガーにはなれていなかったでしょうね」

　実は渋谷区の新居へ引っ越しをする前に、安彦はTwitterで家賃スポンサーを募集したところ、支援の申し出のメッセージがいくつか届いたという。ただ、住むところも金額も定まっていないなかで先走ってしまったと思い直し、一度白紙に。そこで思いついたのが自分の好きな物を販売することで、支援を募るという方法だ。

“元ドラ2”相内誠との試合では、年齢差「17」を感じさせず、1ラウンドKO勝利　©RISE

「スポンサーもいますが、もっと自分の価値を生かしてお金にできる方法はないかと考えていたんです。もちろん応援してくれる人がいても、ただお金をもらうわけにはいきませんし、僕はワインとカフェインレスのブラジルコーヒーが好きなので、自分のラベルで作ったワイン2本とコーヒー豆100グラムをセットで、まずは限定100本を1万2000円（送料、税込み）で販売することにしました。その利益を僕のファイトマネーにできたら、そんなに高くないと思ってもらえるかなと。

　クラウドファンディング的な発想ですが、そもそも僕の挑戦はクラファンでJリーガーを目指すためのトレーニング費用を募ったところから始まっていますからね」

「20歳前後の選手に奢ってもらっていました」

　安彦はいい意味で、人たらしである。Jリーガー時代から多くの支援者に囲まれ、馴染みのレストランでの食事や個人トレーナーを無償で賄ってもらっており、そのスタイルを格闘家になってからも継続している。

44歳になった安彦「今の目標はRIZIN出場」だと話す

「僕は小麦を食べないので、最近は米粉パンを送ってもらっているほか、栄養サプリをいただいたり、車を貸してもらったり。僕のなかではすべてタダにしてもらっているということではなく、実質0円のJリーガー生活から続く僕の挑戦を特等席で見てもらう特権をつけているつもりなんですけどね」

　最もお金に苦労したのは、Jリーガー1年目の寮暮らしだった水戸時代だ。練習終わりに昼食を食べるのにも困り、寮で朝食時に出る白飯と梅干しをプラスチックの容器に詰めて持ち帰り、それをランチにしていたこともあった。

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