「その日は風が強くて、ものすごく寒い中でのピッチングだったんですけど、寒さを感じさせないような姿でした。寒かったら、肩をすぼめたり、手をこすったり、そういうそぶりを見せる子がほとんどなんですけど、そういうことをいっさいせず、ピッチングに本当に集中していた。高校生で……。まずそこに、すごいなと驚きました。自分のやるべきことに対して、本当に集中力を切らさずにできる子なんだなと思いましたね」

　その情景は、昨年の日本シリーズ第6戦、極寒のほっともっとフィールド神戸で、白い息を吐きながら圧巻の投球を見せつけた姿と重なる。

日本シリーズ第6戦、ほっともっとフィールド神戸で力投する山本由伸　©︎Naoya Sanuki

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　当時の都城高の石原太一監督は、山口と同じ広島六大学リーグでプレーした後輩で、初めて山本を見に行った日、ブルペンで山本の球を受けていたのも石原監督だった。そうした縁やインパクトに惹きつけられ、山口は足しげく宮崎に通うようになった。

　投手としての能力と姿勢に惚れ込んだ山口は、スカウト会議で猛烈に山本を推し、結果的にオリックスは山本をドラフト4位で指名した。ドラフト当日、山口は気が気でなかった。

「自分としては2巡目ぐらいで行ってもらいたかったんです。ただ、編成上の都合などもあって4巡目というかたちになりました。4位まで残っていたのは奇跡だと思っています」

「たまたまいい状態の投球を見ることができた」

　のちに、オリックスだけが山本の素質を見抜いた、といった言われ方をすることもあったが、山口はそれを好まない。

「他球団も気づいていたでしょうし、他球団のスカウトの方に迷惑がかかってしまうので……。

　自分はたまたますごくいい状態の投球を見ることができていたので、高校3年生の時点で、怪我などがなければもうすでに一軍半レベルの選手だなと思っていました。考え方もしっかりしていて、自己分析もできる子でしたし。

　ただ高校生の時は、肘にハリがあったり、下半身の調子が悪い、というようなことが結構あって、登板回避や、予定していたイニングより早くマウンドを降りたということもありましたし、（他球団は）いいところを見れていなかったというのもあるかもしれません」

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