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平野歩夢「THA BLUE HERBが好き」は必然だった? ヒップホップとスポーツの“複雑な蜜月関係”《米スーパーボウルも大盛況》 

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下井草秀

下井草秀Shu Shimoigusa

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2022/03/03 11:01

平野歩夢「THA BLUE HERBが好き」は必然だった? ヒップホップとスポーツの“複雑な蜜月関係”《米スーパーボウルも大盛況》<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

競技中にイヤフォンでTHA BLUE HERBを聴いていたことを明かした平野歩夢。五輪の金メダリストでは、マラソンの野口みずきもヒップホップ好きとして知られている

スヌープ・ドッグをかけて打席に入っていたイチロー

 2022年は、スポーツとヒップホップの関係においてエポックメイキングな年になった。そう、NFLスーパーボウルのハーフタイムショーである。

 ハーフタイムショーの長い歴史において、ヒップホップのアーティストが起用されたのは初めてのことだった。ドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ、メアリー・J・ブライジ、エミネム、ケンドリック・ラマー、そしてサプライズゲストの50セント。いずれも、少しでも音楽に興味を持っていたなら誰もが知るビッグネームである。

 アメリカにおける現在のヒップホップの存在感を考えると、遅きに失した気もしないではないが、国民的なイベントの舞台にヒップホップが引っ張り出された事実には、このジャンルのリスナーとして、ようやくここまできたかという感慨を抱く。またドレーやスヌープといった、大麻のイメージと分かち難いアーティストがこういった場所に出てこられる点に、米国の鷹揚な国民性を見る。

 ちなみに、巨大ビジネスに発展したヒップホップの業界は、メジャースポーツの球団オーナーになる人物すら輩出している。ジェイ・Zは一時期、NBAのブルックリン・ネッツの共同オーナーを務めていた。ディディ(パフ・ダディ)は、NFLのカロライナ・パンサーズの買収に名乗りを上げたこともある。億万長者たるドクター・ドレーやカニエ・ウエストあたりなら、単独でどこかの球団を買収することは容易だろう。

 そういえば、イチローは若い頃、ずいぶんヒップホップが好きだった。パブリック・エネミーのTシャツを着た愛工大名電時代の写真を目にしたことがあるし、dj hondaのキャップを愛用していたことは有名だ。メジャー移籍後、打席入りする時のテーマ曲にはスヌープ・ドッグやフロー・ライダーの楽曲を採用していた。

 関係ないが、当時、dj hondaのキャップをよくかぶっていた著名人がもう一人いる。谷村新司だ。彼の音楽性にヒップホップの影響は微塵も感じられないので不思議だった。が、後年になって、ビニ本コレクターとしても知られた彼は、自分が「エッチ」であることをアピールする諧謔として「h」のロゴを掲げた帽子を着用していたのだろうと腑に落ちた。余談はここまでとする。

 ヒップホップは、元来、MCバトルやDJコンテストに見られるように、競技的な側面が濃い。そこにも、スポーツと融和しやすい理由が窺える。

 アーバンスポーツのメジャー化、ヒップホップのビジネスとしての巨大化……。さまざまな要因が相まって、今後も、スポーツとヒップホップのコラボレーションの価値は、ガンガンズンズングイグイ上昇していくことだろう。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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