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平野歩夢「THA BLUE HERBが好き」は必然だった? ヒップホップとスポーツの“複雑な蜜月関係”《米スーパーボウルも大盛況》
text by
下井草秀Shu Shimoigusa
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/03/03 11:01
競技中にイヤフォンでTHA BLUE HERBを聴いていたことを明かした平野歩夢。五輪の金メダリストでは、マラソンの野口みずきもヒップホップ好きとして知られている
日本で言うなら、20世紀末にHi-STANDARDが主催して始まった音楽フェス『AIR JAM』には、上記のようなジャンルのサウンドを混交したミクスチュアロックのバンドが多数登場した。その会場には、スケボーのランプまで設けられていた。
ホッケージャージを好んで着用していたラッパーたち
冬季五輪代表とラップといえば、今井メロを思い出さざるを得ない。何しろ、ハーフパイプという種目における平野歩夢の大先輩にあたるのだから。2006年、トリノ五輪の壮行会で彼女が披露したラップ「夢」は、♪ガンガンズンズングイグイ上昇――というインパクトの強すぎるリリックで世間に衝撃を与えた。のちに本人は、「あれは自作ではなく、大人にやらされたものだった」と明かしている。
この歌詞だけ見た限りでは、昭和育ちなら「ピンポンパン体操」や「ズンドコ節」のメロディーが浮かんでくるかもしれないが、もちろんそうではないので動画を検索してほしい。
ついでに言うと、北京五輪の公式マスコットの名前が「ビンドゥンドゥン」であることを知った時、♪ビンビンドゥンドゥングイグイ上昇――というライミングが鳴り響いたのは、ひとり筆者の脳内のみではないことを信じたい。
ウインタースポーツとヒップホップの関係といえば、90年代、アメリカのラッパーたちは、好んでオーバーサイズのアイスホッケージャージに身を包んでいた。ラップのリスナーなら、2パックやスヌープ・ドッグがNHL所属チームのジャージを着ているミュージックビデオや写真を目にしたことがあるかもしれない。
ヒップホップの世界におけるホッケージャージのブームは、6、7年ほど前からリバイバルの風潮を見せている。エイサップ・ロッキーやフューチャー、ドレイクといった人気ラッパーたちが、再びホッケージャージを着てパフォーマンスに臨んでいるのだ。
しかし、NHLことナショナルホッケーリーグには、アフリカ系の選手が極めて少ない。北米の4大プロスポーツリーグの中でも、突出してその割合は小さい。2019年の統計によれば、白人が97%を占めているという。
一般的にウインタースポーツは、その用具が高価だったり、練習施設の利用にも費用がかかったりと、何かと経済的な負荷が大きい。ゆえに、比較的所得の低い世帯の多い黒人世帯には参入が難しいのが現実ではある。スポーツは、人種間の分断を象徴せずにはおかない。
黒人ラッパーのホッケージャージ着用には、無意識下のうちに、その状況に対するアピールが込められていたのではないか、などと深読みもしてしまうのだ。