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水島新司先生って実は“将棋マンガ”も描いていた? 草野球で対戦、『あぶさん』にも登場した棋士が知るマル秘エピソード
posted2022/03/03 11:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
Sports Graphic Number
水島新司さんは1939(昭和14)年に新潟県で生まれた。中学卒業後、水産問屋で働きながら漫画家を目指し、睡眠時間を削って漫画を描き続けていた。1958年にある漫画新人コンクールで入賞。18歳で漫画家デビューした。
当初はサスペンス・コメディー調の作品を執筆したが、やがて野球漫画に取り組むようになった。
1970年に連載を始めた『男どアホウ甲子園』がヒットした。その後、『野球狂の詩』『ドカベン』『あぶさん』などの作品で人気を博し、野球漫画の地平を拓いた。
リアルな設定や緻密な描写は臨場感にあふれ、水島さんの作品を読んでプロ野球選手を目指した人は多いという。
『ドカベン』の生みの親は、実は相当な愛棋家だった
水島さんは自身の作品で、セ・リーグに比べて、人気が低くて観客が少なかった頃のパ・リーグに光を当てた。修業時代に大阪に住んだことから、中でも南海ホークスを熱烈に応援していた。
その南海に売却の話が持ち上がったとき、自分がオーナーになって南海のチーム名を残したいと本気で思ったという。ただ買収資金は自前で調達できたが、運転資金の当てがなくて断念したようだ。
一般的な野球漫画は、主人公がエースで4番打者という設定が多い。
水島さんの作品は、突出した天才が大活躍するのではなく、個性的なキャラクターの選手たちが登場し、それぞれの役割を果たしている。まさに全員野球だ。作中の主な選手たちを紹介する。
長打と打率を兼ね備えた強肩捕手「山田太郎」、ど真ん中は打てない悪球打ち「岩鬼正美」、飲んべいの代打屋「景浦安武」、好守と秘打が特徴「殿馬一人」、美しい下手投げの投手「里中智」、魔球・ドリームボールが武器の女性投手「水原勇気」、160キロ超の豪速球投手「中西球道」、50歳を超えたよれよれ投手「岩田鉄五郎」、忍者の子孫「真田一球」など。
筆者は、通天閣打法という高い内野フライを打つ「坂田三吉」に興味がある。その名前と大阪のシンボルタワーからは、大阪生まれの伝説の棋士・阪田三吉を思わせる。村田英雄の大ヒット曲『王将』には、阪田三吉が通天閣を見て闘志を燃やす歌詞がある。
実は、水島さんは将棋が好きだった。阪田三吉がモデルで、名優の阪東妻三郎や辰巳柳太郎が主演した映画『王将』や『王将一代』を、筋書きをすべて言えるほど何回も見たという。