渡邊雄太が初めてNBAの試合を見たのは、7歳か8歳の頃。父がいつもNHK BSで中継していた試合を録画して週末に見ていたのを、いっしょに見るようになったのが始まりだった。当時はコービー・ブライアントとシャキール・オニール率いるロサンゼルス・レイカーズが3連覇していた時代。最初に見た試合もレイカーズの試合だった。すぐにコービーに夢中になった。

「最初に見た瞬間から、ずっとコービーが好きでした。何だかわからないけれど、今から思うと、子どもの目から見ても引き付けるものがあったんだなって」

　すぐに父に「僕もNBA選手になりたい」と宣言した。父は、息子の壮大な夢を笑い飛ばすことなく真剣に受け止め、「そうか。それだけでかい夢があるなら、もっと練習しなきゃだな」と言った。それから父にも助けられ、NBA入りに向けた特訓が始まった。

　渡邊が10歳になって間もなく、田臥が日本人選手として初めてNBA公式戦のコートに立った。渡邊もテレビにくぎ付けになって見ていた。

「自分がずっとテレビで見ていた世界に日本人選手がいた。『あ、日本人でもやれるんだ』って。このコートに日本人が立っているってすごいなって感じながら見ていたのを覚えています」

　本物の田臥に会ったのはそれから6年後、高校2年のとき。日本代表候補が40人ぐらい招集された合宿に参加したときだった。といっても、田臥がAグループで、当時の渡邊はCグループだったので、いっしょに練習する機会はなかったのだが、廊下ですれ違った。見た瞬間、「あ、この人が田臥さんか」と思ったという。当時、すでに渡邊は身長196cmで田臥より20cm以上高かったのだが、「正直、オーラがすごすぎて、身長が低いとか思うような余裕もなかったです」と苦笑する。

田臥のNBAデビューから14年後

　田臥のNBAデビューから14年後の2018年、渡邊自身がNBAのコートに立った。メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を交わし、10月27日（日本時間28日）、奇しくもサンズ戦で公式戦デビューをしたのだった。第4クォーター残り4分半で、グリズリーズが25点リードの場面。

「（試合の点差がついたので）『これは、きょう出るな』って思って。正直すごく緊張しましたし、ついに自分もこのコートに立てるんだって、本当にワクワクしました。2本のフリースローの瞬間も覚えていますし、アリーウープ失敗したのも覚えています。試合が終わった直後に家族のグループラインにつないだり、あの日のことはまだすごく覚えていますね。ただ、もっと競った場面で出たいという思いがより強くなった試合でもありましたね」

フェニックス・サンズ戦でNBAデビューを飾った渡邊雄太　©AP/AFLO

　現在進行形で戦っている渡邊にとって、NBAは毎日が競争の舞台だ。それでも、ふと子供の頃の憧れを思い出すことがある。たとえばNBAに入って1年目、ダラス・マーベリックスとの試合で、現役最後のシーズンを送っていたダーク・ノビツキーと同じコートに立ったとき。コービーとともに、子どもの頃に好きな選手だった。

「ノビツキーと同じコートに立った瞬間は、それこそ不思議な感じというか。『あー、あのノビツキーだ』みたいな感じでしたね」と笑う。

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