「昨年度は4月の段階でインターハイの開催そのものがなくなることが発表されていました。前例のない措置ということもあって、先輩たちのモチベーションが落ちたのは、自分たちの目にもわかっていました」

　定めていた目標が消え、毎日ただただ苦しい練習を続けるというのは、高校生には相当に難しいことだ。だが、そんな状況の中でも、当時の3年生たちは花岡ら後輩のため秋の駅伝シーズンまで競技を続けてくれたのだという。

「それなのに自分はその年の駅伝で全然、恩に報いる走りができなかった。目標にしていた『県3位以内』にも入ることができませんでした。それでも卒業するときには『後を頼むよ。全国で活躍してくれ』と言ってくれた。当時の先輩たちの姿を思い出したら、何とか頑張ろうと思えるようになりました」

　ガラッと変わったのは練習時の意識の持ち方だという。

「とにかく練習から試合を意識するようになりました。練習のための練習ではなく、常にレース本番を考えながらトレーニングするようになった。やっぱり1つ1つのレースの大切さ、重要性を身に染みて感じましたから」

「次、頑張ろう」の「次」はもうないかもしれない。日常の小さな部分でも目標や結果にこだわるようになった。

　監督の帯刀にもその覚悟は伝わったという。

「花岡も他の選手も、去年の先輩たちの姿を思い出して、夏の悔しい経験をバネに、腐ることなく秋以降に向けて頑張ってくれました。こちらもその思いに応えて、これまで以上に設定タイムをあげたり、より高い目標を目指せるように厳しく指導してきたつもりです。中でも花岡は、そこにプラスアルファで自分で練習を足したりしていましたから」

　そして、そんな日々の鍛錬は結実する。

高校3年生世代で“全国3位”ランナーに

　昨年12月5日の日体大記録会の5000m。花岡は13分48秒29という記録を叩き出した。これは、高校記録の更新もあり「過去最高レベル」と言われている今季の高校3年生世代でナンバー3となるタイムで、高校歴代で見ても16位という好記録だった。

　ただ、花岡自身は喜びよりも安堵の気持ちが大きかったという。

「その前の記録会で、14分ヒトケタの記録で走れたわりに余裕もあったので、ハマればこのくらいは出るかなとは思っていました。長野は高校生のレベルが高いので、都道府県対抗駅伝のメンバーに選ばれるには最低でも13分台は必要だと思っていました。なので、記録をだせて嬉しかったというよりも『これでやっと選ばれる』と安心した感じでした」

再び消えた「全国デビュー」のチャンス

　そうして昨年末、ついに花岡は長野県チームのメンバーに選ばれた。

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