箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「なぜ高校無名ランナーが箱根駅伝有力大学入りできた?」“全国3位になった高3ランナー”の青春は2度死んだ…いま、部活で起きている悲劇
posted2022/03/03 11:02
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by
Yuki Suenaga
なんとなく、嫌な予感はしていた。
何の気なしに寮のテレビを眺めていても、広島県の感染者数が徐々に増加しているのが気にかかっていたからだ。
だから、年が明けた1月12日、いつものように練習を終え、ふと眺めたスマホのニュースに「都道府県対抗男子駅伝 中止」の文言を見た時も、花岡寿哉はそれほどショックを感じなかった。
ただ、瞬間的に頭によぎったのは、半年前に自分の身に降りかかった出来事だった。
◆◆◆
高校最後の夏の“信じられない終わり方”
「県大会への出場は見合わせることになりました」
強張った表情のまま、陸上競技場の端で部員たちにそう伝える監督の姿を見ながら、花岡はまだ状況を受け入れられずにいた。
「これ、夢なんじゃないか」
そうじゃなきゃ、きっと悪い冗談だろう。いま居るのはもう県大会の会場で、いまは前日練習が終わったところだ。ここまで来てそんなこと、ありえないだろう? 高校最後の夏がこんな簡単に終わること――あるわけないだろう。
「受け入れられなかったですね。もう競技場まで来ているのに……って」
騒がしい陸上競技場で思わず天を仰ぐと、朝から降り出していた雨音が妙に耳に残ったことだけを覚えている。
花岡は長野県の私立高校である上田西高校に通う高校3年生だ。
所属する陸上部では、3年生になった昨春の時点で、高校の中長距離界のメイン種目である1500mや5000mで全国でも有数の記録を持つランナーだった。
それまでは全国大会への出場経験こそなかったものの、2年生の冬以降に急成長。実力を考えれば、夏のインターハイ予選でも問題なく全国まで勝ち上がり、猛者たちと大舞台で上位を争っていたはずだった。
ところが、前述のように県大会前日に、突然学校側から「大会参加不可」の通知が出されたのだ。
「なぜ大会当日に自分の学校の駐車場にいるのか…」
花岡を指導する帯刀秀幸監督はこう振り返る。
「高体連の決まりで、部活動はあくまで学校の活動の延長なので、学校が休みになってしまうと大会参加ができない。仮に陸上部から感染者が出ていなくても、ダメなんですよね。それで、県大会前日の練習を終えて宿に行くというときに学校から連絡があって『休校だ』と。『大会には出られないから、引き上げてくれ』と言われて」