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「はい、泣いて!」基礎から演技表現までみっちり指導…“メディア嫌いで有名”エテリが語っていた教え子への想い「幸せを感じてほしいのです」
text by
栗田智Satoshi Kurita
photograph byGetty Images
posted2022/02/19 11:06
北京五輪で注目を集めた女子フィギュア、ロシアのエテリ・トゥトベリーゼコーチ
生徒たちは3人が見守るなか、週6日、午前と午後90分ずつリンクで氷上練習を行なう。またそれ以外の時間も、柔軟性とバランス感覚を身につけるためのバレエ、敏捷性やリズムセンスを養うとともに体幹を鍛えるジャズダンス、縄跳びを使ったジャンプの基礎練習などに励む。これらオフアイスでのトレーニングの充実が基礎をしっかり固め、高度な技術を支えている。
ユニークなところでは演技指導がある。プログラム完成後に集中的に行なう特別な個人レッスンで、喜び、悲しみ、苦しみといった感情を表情や体全体で表現する方法を学ぶ。「はい、泣いて!」といった俳優養成所のようなワークショップだ。使用曲の理解も深まり、豊かな表現力が磨かれる。
エテリコーチが考える“選手の最終的な目標”とは
こうした厳しい練習の先に果たして何があるのだろう。選手の最終的な目標をトゥトベリーゼはどう考えているのか。
「大きな目標を立てるのは好きではありません。来る日も来る日も練習あるのみです。今日の練習はつらかった。でもまたひとつ前に進んだ。毎日の練習のなかに達成感を見出すことで幸せを感じてほしいのです。そうやって積み重ねていったものが、将来、最高の結果を生むでしょう。たとえばそれは五輪の舞台かもしれません。でも、それもまたひとつのステップにすぎないのです。人生はその先も続くのですから。五輪を最終目標にはしてほしくない」
そう話す彼女の脳裏には、リプニツカヤの姿があったかもしれない。ソチ五輪後のリプニツカヤは周囲の環境が一変し、練習に取り組む姿勢やコーチとの関係が崩壊してしまった。注意をしても「私が正しい」「私はできる」と耳を貸さなくなったという。結局、'15-'16のシーズン途中にリプニツカヤはフルスタリヌィを去っていった。