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「今季限りで退任」阪神・矢野監督の“衝撃発言”に、藤浪晋太郎や佐藤輝明らが戸惑わなかった理由「選手たちはもう自立している」
text by
豊島和男Kazuo Toyoshima
photograph byKYODO
posted2022/02/09 11:25
プロ野球界の“正月”に今季限りでの退任を発表した阪神・矢野燿大監督
「(指導者に)やらされる練習と、自らが考えてやる練習では、どちらが本当に身になるのか。それは確実に自分で考えて納得してやる練習。指導者は、それをサポートする役割だよ」
それは指導者としての理念でもあった。しかし「自主性」を重んじる指導法を真っ向否定されることも多かった。「選手に任せすぎだ」、「それでは育たない」など……。監督自身の耳にも周辺からの雑音は入ってきていた。「自主性」の言葉だけが一人歩きし、一部の人には誤解を生んだこともあった。しかし、選手たちには「自主性」の真意を丁寧に説明し、その意図さえも伝えていた。
「自主性」の言葉に隠された本当の意味は「自立性」だった。
指示待ち人間ではなく、自ら考え抜いて答えを出すことの大切さを伝え続けてきた。そして長い人生を歩む上で挑戦することの大切さ。そこには監督が代わる度に監督の色に合わせて自らも変わってはいけないとの思いがあった。監督が代わっても選手としての道は続く。大半のプロ野球選手も1年契約。厳しい世界で生き残るためには技や体の強さ以上に心の強さが必要だ。
矢野監督も、これまでの人生で数多くのリーダーを見てきた。恩師の野村克也氏がそうだったように、人間教育も力を注いだ。春季キャンプ中には休日にも関わらず全体ミーティングを開き、人生観や死生観の講義を開いたこともあった。実は選手の引退後の人生も見据えていた。衝撃を与えた今回の退任発言。誰よりも言葉の大切さを伝え続けてきた矢野燿大だからこそ覚悟も伝わっていた。
「もう自立している」
選手の多くに動揺が見られなかったのも、これまでの教えがあったからだろう。
「誰が監督になろうと、選手たちは大丈夫。もう自立している」
そう確信があったからこその発言だろう。長期政権を見据えていた球団の意向をはねのけて今季限りで身を引くことを決断。矢野燿大が、どんな監督だったのか――その答えを求める時期は今ではない。近い将来に必ず答えとして出るのだから。