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接触→失速のレース後、菜那は妹・美帆を全力で…初五輪はともに惨敗、高木姉妹が“本命1500m”で競演するまで「ライバルでもある。良い距離感」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/02/08 12:10
Sスケート1500mで銀メダルを獲得した髙木美帆(左)と、8位入賞の菜那(右)
実際、昨年12月12日にカルガリーであったワールドカップ(W杯)で2位。この種目で自身初の表彰台に上がり、自信もあった。
接触→再レースの可能性も「もう脚が残っていなかった」
こうして迎えた北京五輪の1500m。菜那は果敢に攻めた。最初の300mを25秒67で落ち着いて入ると、その後はスピードを緩めず、力強く氷を蹴った。ところが、最後の1周のバックストレートでまさかのアクシデントが起きた。同走の中国選手と体がぶつかって失速したのだ。
レース後、ミックスゾーンで報道陣に対応した菜那は、「あれはさすがに相手がダメ。なんで譲ってくれなかったのか……。結果を残したい気持ちは分かるけど、アウト(コース)優先というのはしっかりやってほしかった」と肩を落とした。
スピードスケートのルールではアウト側の選手に優先権があり、このケースの場合、中国選手が菜那にコースを譲る必要があった。日本側が異議を申し立てれば再レースの可能性もあったが、「そうなったとしても、もう脚が残っていなかったので」(菜那)と唇を噛んだ。
ただ、今回の1500mで菜那が見せた滑りには、この種目でも世界のトップ3を狙える実力が確かに備わっていることが感じられた。ラスト200mほどの位置で接触したにもかかわらず上がり1周のタイム(31秒65)は上位8選手中7番目。結果は8位だったが、接触さえなければ1分54秒92で4位だった佐藤綾乃と同様に、表彰台争いができていたのは間違いのないところだろう。
「滑りは悪くなかったので、最後1周しっかり戦えれば、3位争いができたレースだった」(菜那)
悔しさが伝わってきたとおり、身長155センチの小柄な体でソチ五輪の32位からメダルをうかがえる力をつけた努力がにじみ出る滑りだった。
「周りを気にしがちな自分と比べて…」
平昌五輪の前に姉妹そろってのインタビューをしたとき、菜那は美帆について、「周りや相手を気にしがちな自分と比べて、妹の方がやるべきことに集中できるメンタルがある」と話していた。それから数年がたち、様々な経験を重ねてきた今、菜那はこのように言う。
「この四年間は『速くなりたい』『自分の最高の滑りを北京五輪という大きな舞台で見せたい』『感謝の気持ちで最高の滑りをしたい』という思いだった」
周りや相手を気にする菜那はいなかった。自分の物差しで戦っていた。
菜那が次に出るのは12日に予選が行われる女子チームパシュート。美帆も一緒に出る予定だ。平昌五輪からの連覇を狙う種目に向け、「チームパシュートでは頑張りたい」と気持ちを切り替えた。
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