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「魔物がいると思うこと?ありますよね」記者が思い出す3年前の大失速… 金メダル候補・小林陵侑は北京で羽ばたくか《スキージャンプ》
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byMaddie Meyer/Getty Images
posted2022/02/05 06:01
3年前の世界選手権では悪夢を味わった小林陵侑。好調をキープする今、北京の舞台でリベンジなるか
「リョウユウ・コバヤシ」のアナウンスが会場に響いた。踏み切り台から飛び出した瞬間、会場の大型モニターに表示された助走速度を見て驚いた。時速86.7km。2回目で最も速かった選手と比べて時速3kmも遅く、30人のうちで最下位だった。いくら空中の技術が高い小林といえども、これでは飛距離が出るはずもない。
92.5mで落ちると、惨敗を悟ったのだろう。「14位」という成績が表示された電光掲示板を見ることなく、ただその場にうずくまった。
自然条件にも左右される競技とはいえ、あまりにも不利な環境下。それが理由で、取材に応じられないほど感情的になっていたと明かしてくれたのは、ずっと後になってからだった。
失意の世界選手権を終えた後、小林はシーズン終盤戦となるW杯6戦で2勝を挙げ、5回も表彰台に乗った。そして、欧州勢以外では初の快挙となるW杯総合優勝を果たした。このシーズンはW杯個人28戦で13勝し、2桁順位は1度だけ。世界選手権の成績が、いかに異例だったかが分かる。
「魔物がいると思うこと?ありますよね」
世界選手権との相性は良くないようで、小林は2021年大会でも実力を出し切れず、再び個人種目でメダルなしに終わった。ノーマルヒルは1回目3位につけながら、2回目は踏み切るタイミングの遅れを修正できず、12位。ラージヒルでは1回目の着地でまさかの転倒を喫して34位となり、2回目に進むことさえできなかった。激しい降雪により着地面付近の状態が悪く、バランスを崩したようだ。大事な時に、またもや雪に邪魔された。
競技後、オンラインで行われた取材の場に小林は姿を見せなかった。翌日の男子団体を4位で終えた後、ようやく報道陣に口を開き、前日のジャンプを振り返った。
「このまま伸びるだろうなと感じたけど、いきなり(風に)たたかれた感じ」
着地が乱れただけでなく、空中でも不運な風に当たったようだ。
「2年前も悔しい思いをした。世界選手権には魔物がいると思うことは?」
そう尋ねると、苦笑いしながら答えた。
「ありますよね」
ジャンプ週間に3連勝、今の調子は最高潮
2月4日に開幕する北京五輪は、小林にとって2度目の舞台。21歳の時に出場した前回の平昌大会は、個人種目でW杯表彰台の経験もない中、ノーマルヒルで7位、ラージヒルで10位。ともに日本勢の最高順位をマークし、注目を集めるきっかけになった。五輪との相性は、世界選手権と比べて悪くない。
調子は最高潮に近い。