野球善哉BACK NUMBER
球界にスター誕生のカギは「トミー・ジョン手術の理解」にある? 西武・岸潤一郎は“野手で復活”、CS対戦のオリックス山崎颯&ロッテ岩下も
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJIJI PRESS
posted2022/02/02 17:00
明徳義塾の元エースで現西武の岸潤一郎は、大学2年時にトミー・ジョン手術を受け、現在は野手として第二の野球人生を歩んでいる
彼の場合、明徳義塾高校時代に「甲子園のアイドル」と騒がれ、とにかく投げた。高校1年夏から投手・主軸打者として活躍。高校2年夏には現チームメイト、森友哉率いる大阪桐蔭を破って、甲子園ベスト8進出を果たしている。
手術後、野手として西武のレギュラー候補へ
しかし、高校時代の登板過多がたたり、大学では思うようなピッチングができなかった。そこで、体に異変を感じた岸は思い切ってメスを入れたのだった。
その後、大学を中退、一旦野球から離れる時期もあったが、母親や独立リーグ・徳島インディゴソックスの社長の説得に応じる形で野球界に復帰。野手としてではあるものの、19年のドラフトで指名され、昨季はレギュラー争いの一角に名乗りを挙げたのだった。
彼のポテンシャルからしても、投手としてはそれほど未来が望めなかったかもしれないが、早い段階で手術を受けたことで、野手としての居場所を掴み、第二の野球人生を歩んでいるのである。
執刀医「最近の動きは前向きなこと」
ここで注目しておきたいのは靱帯断裂の怪我に対する正確な知識と、手術をするという判断は絶望ではないということだ。
トミー・ジョン手術の執刀医である古島弘三氏は言う。
「以前は『このままだったら投げられないでしょう、手術した方がいいよ』という診断を下しても球団からGOサインが出なかった。昔は、手術したら『選手生命が終わる』みたいな風潮がありましたが、手術しても良くなっている人が実際にいるので、信頼感が増して許容する球団が出てきた。もちろん、最近の動きは前向きなことと捉えていいと思います。能力のある選手を救う手立てが残っているわけですから」
もっとも、「手術したら治る」と言っても、身体をケアせず無頓着に投げていいということではない。
故障しないための最善は尽くすべきだ。過去の症例に従い、避けられる故障は避ける。特に学童から高校生までの年代での登板過多には注意を払うべきだろう。
ただ「これだけケアをした」というまで注意を払った中で起きてしまう故障は仕方のないことだ。