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球界にスター誕生のカギは「トミー・ジョン手術の理解」にある? 西武・岸潤一郎は“野手で復活”、CS対戦のオリックス山崎颯&ロッテ岩下も
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJIJI PRESS
posted2022/02/02 17:00
明徳義塾の元エースで現西武の岸潤一郎は、大学2年時にトミー・ジョン手術を受け、現在は野手として第二の野球人生を歩んでいる
135キロ以上を投げる=故障リスクは2.5倍以上
昨今、中学・高校生年代における投手のスピードはどんどん速くなっている。今年、阪神に入団した森木大智は中学時代に軟式球で150キロを計測した程だ。古島医師のリポートによると「135キロ以上を投げれば、それ以下と比べて故障リスクは2.5倍以上に跳ね上がる」というから、スピードボールが及ぼす身体への負担は計り知れない。
だからこそ、スピードボールを投げる投手へのケアは過剰なくらいに必要で、昨今のプロ球団のいくつかは、トレーナーやピッチングコーチが登板間隔を空けるなどして、配慮するようになっている。
とはいえ、どれだけケアをしても、人生を変えうるかもしれない1球をめぐる戦いの中で、それを制御することはできない。選手としての闘争本能に火がついている状態で「故障リスク」を考える投手などいないからである。
我々見る側も、戦っている間は全力で腕を振っている中での対決に魅了されるわけだし、選手が限界に挑み、少しずつ超えていく。そこにこそ、スポーツの素晴らしさがあると言える。
「手術=野球人生の終わり」という幻想
球団によってはいまだにトミー・ジョン手術を理解できず「手術=野球人生の終わり」と捉えているところもあるようだが、それはただの情報不足でしかなく、その考えではスーパースターも生まれなければ、野球界の発展もあり得ないだろう。
今も、快投を見せている剛球右腕や期待値の高い若手投手などが、今後、ややもすると、この手術に至ることがあるかもしれない。ニュースとしては悲観的に受け止める人もいるだろうが、スポーツ医学の進歩のおかげで様変わりしているという現実もある。限界に挑んだ上で、手術からのリスタートに勇気を持って挑んでもらいたい。
昨秋のCS、山崎颯、岩下の二人が揃って153キロのストレートを投じ、ファンを沸かせた。勝敗に関わることがなかったため、彼らの苦悩が報じられることは多くなかったが、シーズンクライマックスの舞台で、二人の豪速球を再確認できたことは球界にとって明るいニュースになったに違いない。
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