「（着氷時に）力が抜けて踏ん張れませんでした」

　試合のあとにこう振り返ったが、スケート靴にブレードを取り付けているビスが抜けたのだ。締めなおして再開したが、万全とは言えない状態でいつもの演技をするのは無理だった。その後もジャンプの乱れなどが出て、5位で大会を終えることとなった。

審判にアクシデントを説明する高橋大輔　©AFLO

　髙橋は、毎晩靴の状態を点検していて、試合前にも確認していた。大切さを熟知すればこそだ。それでも、思わぬことは起きた。

コーチが接着剤とテープで応急処置を試みるも…

　2012年の全日本選手権のショートプログラムでもアクシデントがあった。滑走順を迎え、コールされた堀之内雄基が、なぜかジャッジ席へ向かった。やがてリンクサイドでコーチと話を始めた。

　実は演技開始直前、ウォームアップとしてジャンプをしたとき、ブレードが折れていた。

　コーチは接着剤とテープを取り出し、応急処置を始めた。会場には異様などよめきが響いた。……おそらくは、これからプログラムを滑るための処置としてではなかったのだろう。ひととおり作業が終わると堀之内はリンク中央に進み、四方へと一礼した。棄権だった。それしか選択肢はなかった。場内からの拍手は鳴りやまなかった。

　涙とともにリンクから降りた堀之内とすれ違いざま、その肩を叩いた選手がいた。町田樹だった。

2012年全日本選手権の町田樹　©Takuya Sugiyama

　そして、4年に一度しかない大舞台、オリンピックでもアクシデントは起こってしまった。2010年バンクーバー五輪のことだ。

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