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「ショックすぎて、言葉になりません」たった1度の五輪で演技中断…織田信成を襲った“まさかのアクシデント”とは?
posted2022/02/07 11:05
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JMPA
以前、スケート靴のメンテナンスに携わる職人の方が話していた言葉が印象的だった。
「試合の中継のとき、演技は観ていません。観ているのは靴とかブレードばかり」
結果をも左右する「スケート靴のアクシデント」
相対的に用具をあまり必要としないフィギュアスケートの選手にとって、最も重要なのがスケート靴と、靴にとりつけられているブレードだ。ブレードは金属の刃のような形状をしていて、氷に直接触れるところだ。
ブレードは一見、1枚の刃のようだが、実際は氷と接する部分の「エッジ」という2本の刃から成り立っていて、その間は滑らかな半円形のような形状をしている。ときどき、このエッジを研磨してもらう必要が出てくる。その役割を担うのは、コーチであったり、職人であったりする。選手が試合で滑っているとき、そこにばかり目が向くというのも、調整がうまくいったかどうか、不具合が出てこないかが気になるからだと言う。試合の話ではないが、羽生結弦が昨年、NHK杯を前にしての練習で怪我したことに触れた際、こう語っている。
「4回転半のアクセルをやって、そのまま次のサルコウに行ったときに、エッジが氷に絡まってしまって。ちょうど、エッジを研磨してもらったばっかりだったんですよ。で、感覚が違うなって思いながらやっていたんですけど。(中略)エッジのメンテナンスをちゃんとしきれなかったっていうか」
それくらい繊細な作業だからこそ、手がけた人は気にかける。職人だけでなく、選手自身も、神経を注いでいる。
それでも、アクシデントが起きることがある。
高橋大輔を襲ったアクシデント「ビスが抜けた」
例えば、2011年の世界選手権が浮かぶ。アクシデントに見舞われたのは髙橋大輔だった。フリーの演技中、ジャンプで着氷したあと、髙橋はジャッジ席にアピールし、演技が中断された。