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五輪直前に選手を襲撃、犯人は“ライバル選手の夫”…フィギュア界の最大スキャンダル「ナンシー・ケリガン襲撃事件」とは
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2022/02/03 11:03
五輪直前にアメリカの有力選手が襲撃される。犯人は、まさかの“ライバル選手の夫”だった
ライバルを落とそうとするハーディングによる計画ではないかという疑念が生じた。さらに逮捕された元夫が、ハーディングが事前に計画を知っていたと主張。アメリカオリンピック委員会など関係団体は五輪選手団からハーディングを追放する処分も検討したがハーディングは無実を主張。結果、そのまま代表にとどまり、ケリガンも特例として代表に選出。一度は選ばれたクワンは補欠に回るという前代未聞の事態となった。
異様な雰囲気に包まれたリレハンメル五輪
一連の出来事は、アメリカのみならず、世界中の関心を集めることになった。
そのため、2人が出場したリレハンメル五輪は異様な雰囲気の中で行なわれた。ふだんは目にしない屈強なセキュリティの姿が目につくほど厳重な警備が敷かれた。アメリカはケリガンとハーディングを完全に別行動とした。まるで2つのチームがあるかのような状態だった。
その中にあった2人は対照的な結末を迎える。
演技序盤で号泣…対照的だった“2人の結末”
ハーディングはテクニカルプログラム(現在はショートプログラム)10位でフリーを迎える。ところがコールされても、ハーディングは姿を現さない。当時のルールでは、コールされて2分が過ぎれば失格となってしまう。その2分が近づくぎりぎりのタイミングで現れたが、演技序盤で涙を流し演技を中断、靴ひもが切れたとアピールする。これが認められ、このグループの中の最後の滑走順に変更して再度演技を行なった。ただ、思うような演技にはならず、総合8位にとどまった。
やむをえないこととはいえ、急きょ、演技の開始時刻が繰り上がった後続の選手たちの中には、動揺を隠せなかった選手もいたという。特にハーディングのすぐあとだったジョゼ・シュイナール(カナダ)への影響は大きかっただろう。
ハーディングと対照的だったのがケリガンだった。銀メダルを獲得し、2大会連続でメダルを手にしたのである。