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オシムが阿部勇樹に伝えた「指導者になることを意識しながら、プレーを」 引退までの4年間、たどり着いたラストミッション
text by
塩畑大輔Daisuke Shiohata
photograph byDaisuke Shiohata
posted2022/01/21 17:00
2017年、オシムさんのもとを訪れた際の阿部勇樹
現役選手としての緊張感のようなものを、再び取り戻していた。数時間の機内で、何を思っていたのだろうか。
「残された時間が、とても貴重なものだと、あらためて感じたんです」
阿部はそう振り返る。
アドバイスを活かせるのは、まだ現役だから
指導者を意識しながら、選手としてプレーする。オシムさんの言葉は、現役のアスリートとしての「終活」を勧めるようにもとらえられるものだった。だが、よくよく考えるうちに、阿部の受け止め方は変わった。
「ものすごくありがたいアドバイスを活かせるのは、自分がまだ現役だからだなと」
16歳の頃から、トップリーグのピッチに立ち続けてきた。だからもしかしたら、そのありがたみが分かりにくくなっていたのかもしれない。現役としてプレーする日々というのは、かけがえのないものなのだ。恩師の言葉を噛みしめるうちに、はたと気づくことができた。
年が明けて、2018年シーズンの始動。阿部のテンションは、いつも以上に高かった。
「なんかね、あの年はものすごくモチベーション上がってましたよ」
阿部と最も親しいチームスタッフであるフットボール本部強化担当・水上裕文さんが、当時を振り返る。
「オレはやりますよ、と。そういう様子が、すごく印象に残ってます」
オシムさんにもっといいニュースを
シーズン開幕を前にした春季キャンプ。オシムさんが勧めてくれた「指導者目線のプレー」は、新鮮な発見をたくさんもたらしてくれた。
「その瞬間、瞬間に監督が自分に何を求めているのか。そういう視点から見ると、サッカーの見え方はまったく違うものになって」
指導者になる準備として素晴らしいだけではなかった。今まで以上に、ピッチや試合の流れを俯瞰できるようになった。
「そういうことを考えてきたようで、実はきちんと考えられていなかった。サッカーは本当に奥が深いものなんだなと、あらためて感じたというか」
自分は選手として、もっと成長できる。期せずして、そんな手応えを得た。
「なにより、選手としてやれるうちは、選手としてオシムさんにもっといいニュースを届けたい。そういう気持ちが強くなりました」
オシムさんに対して本当に申し訳なかった試合とは
「指導者目線で」という言葉と同じくらい、印象に残ったもの。
それは再会したオシムさんが、阿部と浦和レッズが2017年のアジアチャンピオンズリーグで優勝を果たしたことを、とても喜んでくれたことだった。
同じアジアでの戦いで、阿部には一生忘れられない出来事があった。2007年のアジアカップ。オシム監督率いる日本代表は、準決勝でサウジアラビアに2-3で敗れた。
阿部は言う。
「自分のミスで失点して負けた。日本で応援してくださるみなさんはもちろん、オシムさんに対して本当に申し訳なくて」
重用する阿部が失点に絡んだこともあって、オシムさんは批判にさらされた。
そしてその年の冬に、脳梗塞で倒れた。