6月下旬の高円宮杯プレミアリーグWESTの試合で、小林の危機感は確信に変わる。小林が負傷したことで、碇が第8節サガン鳥栖U-18戦でスタメン起用されると、2試合連続スタメンとなった第9節東福岡戦ではゴール前の混戦から決勝弾をマーク。チームは1勝1分の成績で、エースの小林が抜けた穴を碇が見事に埋めたのだった。

ボランチとしては最高のパートナー、FWとしては…

「正直『いよいよ来たか』と。プレミアを境に明日麻の存在は知られるようになって、いつスタメンを奪われてもおかしくない状況になったと思いました」

　ここから、小林は自身の成長にこだわるようになった。「自分は本当にチームのストライカーとして信頼を得られているのか」と自問自答し、碇のプレーを見ながら自分に足りないものを探り、逆に碇より勝っているものを伸ばすことを意識した。

「対人の強さ、前線でのタメ作りを意識して、これまではヘディングしていたところを相手に体を当ててから胸でトラップしたり、足元にボールを収めて森田大智さん（MF／3年）ら2列目の選手が飛び出せる時間を作ろう、と考えるようになりました」

頭ひとつ抜けた高さに加えて、ポストプレーにも磨きをかけた小林　©Takahito Ando

　夏を過ぎて急成長を見せた小林。そんな先輩の姿に、今度は碇が大きな刺激を受けていた。

「自分ならヘディングするボールを胸トラップして、きちんとボールを収めることで周りの動きを引き出している。それが夏を過ぎてからさらにパワーアップしている。自分も負けていられない」

　実は、碇は入学当初から小林をずっと意識していたという。

「FWとしては最高のライバルですし、僕がボランチで出たら最高のパートナーになる。なので、僕はFW、ボランチの2つの目線で俊瑛さんを見ています。FW目線では俊瑛さんのクロスの入り方、ボールの収め方を参考にして、ボランチ目線では俊瑛さんが得意なシュートの形や、どういうパスを出せばターンしやすいのか、オフの動きのタイミングと狙っているポイントを観察しました」

FW碇明日麻（1年）はエースの小林を参考に成長を遂げた　©Takahito Ando

　碇の成長に小林の存在は欠かせなかった。ボランチとして出場したときは、どう先輩の良さを引き出すかを考え、FWでコンビを組めば「俊瑛さんの逆の動きをしようと考えています。なるべく良さを消し合わないようにプレーした」と相手DFと駆け引きをしながらアクションとリアクションを使い分けた。ベンチに座る時間も両方の目線を持って小林のプレーを見つめ、自身のイメージを広げていた。だからこそ、プレミアで代役のチャンスが訪れた際も、すぐさまゴールという結果に結びつけることができたのだろう。

【次ページ】　「避けられてる？」「余裕がなかった」それぞれの葛藤