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“魂のジャーマン”にカメラマンも涙…難病と戦う関根“シュレック”秀樹が命がけでリングに立つ理由「諦めなければ良いことがあるから」 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph by©RIZIN FF Susumu Nagao

posted2022/01/13 17:04

“魂のジャーマン”にカメラマンも涙…難病と戦う関根“シュレック”秀樹が命がけでリングに立つ理由「諦めなければ良いことがあるから」<Number Web> photograph by ©RIZIN FF Susumu Nagao

Uインターや全日本で活躍したゲーリー・オブライトを敬愛し、コスチュームの「N」のロゴを引き継ぐ関根“シュレック”秀樹。ジャーマンスープレックスは2000年に36歳で夭折したオブライトの必殺技でもあった

 大晦日のさいたまスーパーアリーナは選手、関係者にとって、特別な場である。その年の格闘技の総決算であり、選手は命をかけて、極限まで体を張って、ようやく大晦日の舞台に上がることができる。ファンもそのことを理解しているので、いつも以上に熱いまなざしと拍手で応援する。私も会場入りする前には冷水で身を清め、新しい下着で撮影に臨む。大晦日のリングは、日本の格闘技に関係するすべての人間にとって“神聖な場所”なのだ。

試合の流れを変えたジャーマンスープレックス

 12月31日、関根は第9試合に登場した。対戦相手のシビサイ頌真は、打撃も寝技も器用にこなす日本人ヘビー級のトップ選手だ。シビサイがスタンドの打撃で攻め込む。隙を見て関根は寝技に引き込もうとするが、そのたびにシビサイのパウンドやキックを被弾する。ボコ、バチンといった重低音、ゼイゼイという関根の荒くなった呼吸……。スタミナが切れかかっているのは明らかだった。

 レフェリーが試合を止めるのも時間の問題かと思ったそのとき、関根のジャーマンスープレックスが炸裂した。いったいどこにそんなスタミナが残っていたのだろうか。ジャーマンスープレックスは彼の得意技で、プロレスでのフィニッシュとして使用することが多いが、MMAではこの技で相手をKOするのは難しい。しかしこれで一気に形勢が逆転、関根が上からパンチを打ち続けたところで、1ラウンドが終わった。

 インターバル中の関根の様子を見ると、左目が大きく腫れ、肩で息をしている。48歳という年齢、下垂体腺腫という病気もあり、彼の体力はもうわずかしか残っていない。勝機があるとしたら2ラウンドの前半まで、そこを凌がれたら勝負は相手のものとなるだろう。ゴングが鳴る。私は集中を高めて、関根の動きを注視する。いや、彼と一緒に戦っているような感覚に近い。警察を辞めて、彼が大晦日のリングで試合をするまでの過程を見てきている。だからこそ、感情移入してしまうのだ。

 シビサイは1ラウンドと同じように打撃でプレッシャーをかけてくるのだが、明らかに動きに切れがない。単発だが、関根の打撃が当たり始めた。パンチの一発一発に声を出しながら、打ち込んでゆく。その様は泥臭く、あまりにも刹那的で、拳に魂が宿っているかのようだった。関根は一瞬の隙をついて、テイクダウンからサイドポジションで上になると、最後の力を振り絞り、鉄槌を顔面に連打する。シビサイの動きが止まり、レフェリーが試合をストップ。勝った関根も動くことができず、リングにしばらく横たわったままだった。

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シビサイ頌真

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