「もう、走ることはありません」。そう言うように、箱根を最後に靴紐をほどき、ロードから教壇へと活躍の場は変わる。徳本監督にランナーとして指導を受けることはなくとも、指導者の「師」として“徳本スピリッツ”を受け継いでいくのだろう。

「徳本監督には『教える』ではなく『引き出す』指導を学びました。監督は厳しいことを言う時も多いですが、些細なコミュニケーションもすごく大事にしている。選手目線に立って物事を捉えたり、それぞれの個性や考え方に合わせて指導していると強く感じました」

来春には教壇に戻る今井。体育教師として“徳本スピリッツ”を受け継いでいく　©Yuki Suenaga

31歳の箱根駅伝は「運と縁が重なった奇跡」

　今井のチャレンジは新興の駿河台でないとなし得なかっただろう。そもそも、教員が休職して箱根を目指すなんてほぼあり得ないことだし、常連校では到底受け入れられなかったと思う。今井本人も「運と縁が重なった奇跡だった」と振り返る。

「仲間に恵まれてこの舞台に立たせてもらいました。僕が結果を残したというよりは、周りが結果を出したところに僕がいたというのが事実かなと思います。徳本監督という良き理解者がいて、僕を取り巻く環境があってできたチャレンジでした。

　これまではチャンスをいただいた身なので、今後は自分が若い子たちのチャンスを作り、支えていく人になりたいと思います。箱根から世界へと言いますが、僕の場合は『箱根から次世代へ』ですね」

　来春には教壇に戻る。箱根に例えれば今後の今井は監督車に乗り、教え子という名のランナーを叱咤激励していくのだろう。熱い言葉で檄を飛ばすタイプか、はたまた優しい言葉で背中を押すタイプか――。どんな先生になるのか楽しみだ。