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〈箱根秘話〉田澤廉「今回のご苦労さんの方が嬉しい」“2区区間賞”なのに冷静だった駒大エースを笑顔にした“大八木監督の一言”
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byYuki Suenaga
posted2022/01/06 11:02
箱根駅伝では2区で区間賞の見事な走りを見せた田澤廉(駒大)
ニューイヤー駅伝の話題に目を輝かせて…
田澤が意識するのは、目先の勝ち負けではないのだろう。箱根駅伝を目前に控えた昨年12月、田澤は調整が難しくなるのを覚悟した上で1万メートルの記録会に挑戦した。そこで27分23秒44の日本歴代2位のタイムを叩き出したが、喜びを爆発させたのは記録の中身だった。今年オレゴンで開催される世界選手権に出場するために必要な、同種目の参加標準記録(27分28秒00)を切ったことが重要だったのだ。
田澤の中ではすでに、箱根で勝つことと同じか、それ以上に世界で戦いたい思いが強いに違いない。だからだろう、箱根の話題から逸れ、元日に行われたニューイヤー駅伝で旭化成の相澤晃が区間新記録を打ち立てたことに話が及ぶと、目を輝かせてこう話す。
「直前練習があったので実際には見てないんですけど、確か10kmを26分台で通過したんですよね。そろそろ勝てるかなと思ったときに、またこうしてめちゃくちゃ速いタイムを出してくる。本当に力があるなって思いますし、改めて自分も負けられないなって思います。目標にしている選手の1人なので、向こうが出したら自分も出してやるみたいな、そんな感じで思ってます」
相澤は1万メートルの現日本記録保持者(27分18秒75)だ。東洋大時代に箱根で活躍し、4年生の時に2区でマークした1時間5分57秒は日本人学生最高記録でもある。昨年は東京オリンピック出場を懸けて1万メートルで競い合ったが、田澤は選考過程で敗れていた。
「だからなおさら、7月の世界選手権は意識してますね。まだ代表に決まったわけではないですけど、日本選手権で3番以内に入れば内定がもらえるようなので、そこにしっかり合わせてやっていきたいです」
戸塚中継所で三浦龍司と交わした言葉
もし出場したらとの問いには、こう答える。
「そこからようやく世界への挑戦が始まるので、しっかりとそこで世界の実力を肌で感じて、今の自分の実力がどんなものかを噛みしめたいです。今回、同じ区間を走った三浦はすでにサンショー(3000メートル障害)で五輪に出て結果も出しているので、自分も早く同じ舞台に立ちたい。そういう舞台で結果を残してこそ、自分は満足できるんだと思います」
ここ戸塚中継所で、2区を走り終えた選手が身支度をととのえる中、田澤の方から三浦のところへ歩み寄り、「お疲れー」と声をかけるシーンがテレビカメラに収められていた。
「オレも世界陸上の標準切ったからさ、あとは日本選手権で勝って一緒に行こうね。頑張ろう」