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〈箱根秘話〉田澤廉「今回のご苦労さんの方が嬉しい」“2区区間賞”なのに冷静だった駒大エースを笑顔にした“大八木監督の一言”
posted2022/01/06 11:02
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Yuki Suenaga
あれだけの走りを披露したにもかかわらず、駒澤大の3年生エース、田澤廉の表情は驚くほど冷静だった。
「嬉しいのは嬉しいですけど、そんなにめちゃくちゃ嬉しいわけではないです」
だが、走り終えた直後に、運営管理車に乗る大八木弘明監督から「ありがとう、ご苦労さん」と声をかけられたシーンを振り返ると、屈託のない笑みがこぼれた。
「前回も同じことを言われたんですけど、今回のご苦労さんの方が嬉しい。監督も心から喜んでくれているようだったので、頑張って良かったです」
「なんて言うんですかね、自分が見ているのはここじゃない」
今年の箱根駅伝はとりわけ2区のエース対決が注目された。1万メートルで日本歴代2位の記録を持つ田澤を始め、同区間の記録保持者(1時間5分49秒)であるイェゴン・ヴィンセント(東京国際大・3年)、東京五輪でも活躍した三浦龍司(順天堂大・2年)、1万メートル27分台の記録を持つ中谷雄飛(早稲田大・4年)ら、各大学のエースたちがこぞって顔を揃えたからだ。
ヴィンセントを含むケニア人留学生が5人もエントリーし、序盤からスピードレースになることが期待される中、持ち味を存分に発揮したのが田澤だった。
序盤の5kmを14分5秒のハイペースで突っ込むと、7km過ぎには早くも39秒前を走っていた中央大の手島駿(4年)をかわして首位に立った。単独走になってからもペースを緩めず、後半に厳しい上り坂が続く難コースを歴代4位となる1時間6分13秒の好タイムで駆け抜けたのだ。
前回は区間7位の記録にとどまり、総合優勝に沸くチームの中で、「自分が活躍していないのでそこまで喜べないですね」と語っていたが、今回は堂々の区間賞。”学生最強”であることを証明してみせた。
それなのになぜ、喜びが控え目なのか。
「去年は権太坂のところでもういっぱいいっぱいで、終盤も粘れませんでした。でも今年はある程度余裕を持ちながらラスト3kmまで行けたので、力が付いたなと自分でも思います。歴代最強留学生のヴィンセントに勝てたのは良かったなと思うんですけど、なんて言うんですかね、自分が見ているのはここじゃないという思いがあって……」