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イチロー氏への質問「なぜ今もそこまでハードなトレーニングを?」高校生プロジェクトの裏で語った“頭を使わない野球への危機感”
posted2021/12/29 17:08
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Naoya Sanuki
「イチローさん高校生プロジェクト」
国学院久我山に始まり千葉明徳、高松商業と続き、女子高校選抜との試合で締めたこのオフの高校生への実践指導。最後は気温6度、体感気温3度の寒さの中、147球完封の熱投を見せた。途中、右ふくらはぎがつるアクシデントもあったが、48歳となった今でも現役時代同様に維持した体から、最速135キロの直球を投げ込んだ。奪った三振は毎回の17個。女子高校生にとってはかけがえのないひとときとなった。
28年間のプロ生活でも“未経験のアクシデント”に苦笑
終了後、イチローさんは苦笑を続けていた。理由は右ふくらはぎを襲った痙攣だった。日米通算28年間のプロ生活で見せたことがなかったフィールド上での苦悶の表情。これだけは想定外だった。恥ずかしさを隠しながら言った。
「初めてですよ、そりゃ。寒さは大きいですね。あとは力の入り方が普段とは違うんでね。それももちろんあったし。(日頃のトレーニングの)賜物じゃない感じが出ちゃったんで。賜物だったら、もうちょっとできるんだけど(苦笑)。でもなんとか最後まできて、自分の限界が見られたという意味では、アスリートとしてとても有意義な一日ですね」
引退から2年9カ月。48歳になった今でも現役時代同様に日々鍛錬を重ね、常に前へと進もうとするイチローさんらしい姿がそこにはあった。
指導美学「熱量には熱量を持って返す」
このオフに実現した4つの指導。教わる高校生側には『イチローさんに教わりたい』という熱い思いが共通してあった。同じような思いを持つ高校生は全国に数えきれないほどいるだろう。その熱い思いがイチローさんに伝わったことは彼ら、彼女らにとっては本当にラッキーだった。その中で、イチローさんも覚悟を持って臨んでいた。
『熱量には熱量を持って返す』
イチローさんの指導美学であり精神。その上で技術を伝授するためには自身がアスリートであり続けることが重要と考えていた。