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“有馬記念で3年連続3着”ナイスネイチャ33歳がふるさとで過ごす幸せな余生「馬なのに“人間っぽくて大好き”と言われます」
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byDaisuke Asauchi
posted2021/12/25 17:03
今も多くのファンに愛されるナイスネイチャ。33歳を祝う「バースデードネーション」で3500万円を超える寄付が集まったことも話題を呼んだ
母のウラカワミユキは、2017年にサラブレッド牝馬の国内最高齢記録(当時)となる36歳でこの世を去った。それでも渡辺さんは「もっと長生きしてほしかった」とその死を惜しむ。ウラカワミユキとナイスネイチャの母子は、幾度となく存続の危機に瀕した渡辺牧場にとって心の支えでもあった。
「お母さんと同じように元気に長生きして、牧場と家族をずっと支え続けてくれた。本当にナイスネイチャには感謝しかありません。過保護と言われるかもしれないけど、私たちも一生懸命に大事にしてきました。馬服も季節に合わせて厚さを変えて、なにかあったらすぐにお医者さんに診てもらって……。もちろん他の馬も同じです。ナイスネイチャは生きているだけで喜ばれますし、それが仕事にもなっていますけど、やっぱりただ生きるのではなくて、幸せに長生きすることが大切だと思うんです」
ふるさとの牧場で愛情をたっぷりと注がれながら、老後の生活を送るナイスネイチャ。有馬記念が近づくたびに、なかなか勝利に届かなくても力を振り絞ってターフを駆ける姿を思い出す競馬ファンも少なくないだろう。引退馬協会の沼田理事は、現役時代から続くナイスネイチャの人気ぶりについてこう分析した。
「有馬記念の3年連続3着だったり、何度負けてもへこたれずに挑戦を続ける姿勢だったり、歳を重ねるごとに寂しがり屋になったり、馬なのにどこか庶民的で“人間くささ”を感じさせるエピソードが多いんです。たくさんの人がそんな姿を自分と重ね合わせて、『私も頑張ろう』と励まされるんじゃないでしょうか。引退馬協会にも『ナイスネイチャの人間っぽさが大好きです』といったメッセージがよく寄せられます」
サラブレッドは生まれ落ちたその瞬間から、あるいはそれ以前の配合の段階から、人間以上にシビアな競争に晒されている。大多数を占める「競争からこぼれ落ちた馬」たちは、どうすれば幸せをつかむことができるのか。現役時代は惜敗ばかりだったナイスネイチャの幸福な馬生が、そんな問いに示唆を与えてくれるかもしれない。
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