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「実力ではなくキャリアに注目されている」「『若いから箱根駅伝には価値がある』という意見もあった」31歳大学生ランナーが葛藤した“挑戦の2年間” 

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荘司結有

荘司結有Yu Shoji

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photograph byIchisei Hiramatsu

posted2022/01/01 17:04

「実力ではなくキャリアに注目されている」「『若いから箱根駅伝には価値がある』という意見もあった」31歳大学生ランナーが葛藤した“挑戦の2年間”<Number Web> photograph by Ichisei Hiramatsu

「31歳の体育教師ランナー」。異色の挑戦を続ける中で、駿河台大・今井隆生が戦ってきた葛藤とは?

 自分の走りを取り戻したことで、プレッシャーからも解放された。無事にエントリー入りを果たし、後は箱根本番しか残っていない。今春にはふたたび、教壇へと戻る。

「箱根駅伝が終わってどうなるかわかりませんが、僕にとってはそこが『頂』ですね。もうこれからなにかやろうとか、そういう気持ちにはならないと思います」

「僕、めちゃくちゃ強運なんですよ」

 余談ではあるが、日体大記録会での復調にはもう一つの「裏」エピソードがある。

「僕、めちゃくちゃ強運なんですよ」

 聞けば、今井は最強のくじ運の持ち主。教員採用試験前の願掛けで引いたおみくじは、4回とも「大吉」だったという。一般的に倍率が高いといわれる体育教員の教採はなんと、最後の一枠で合格を掴み取った。箱根挑戦の「ラストチャンス」だった日体大記録会前にも、自身の結果を運に委ねてみたという。

「おみくじの内容が結構当たるので、あれ(教採前)から怖くて引けなかったんですよ。でも、日体大記録会の前日に、神社で『最後の力を貸してください』ってお願いして、おみくじ引きに行きました。これで凶とか末吉だったらおみくじを言い訳にするかも、って100円入れた後に10分くらい悩みましたね(笑)。ただ、(箱根挑戦も)賭けみたいなもんだしなって思って引いたら……」

 見事、「大吉」を引き当てた。

 おみくじに書いてあったのは「叶い難いようですが、半ばより案外安く叶う」。

〈上手くいくのは難しいように思えるが、途中から意外に簡単に希望が叶う〉との意味だという。まさに、日体大記録会前後の今井を言い表しているかのようだ。

「この前、日本テレビのアナウンサーの平川健太郎さんに『今井さんは強運の持ち主ですね』って言われたんです。『我々がアナウンサーになれたのも強運ですけれど、ただ運だけじゃないんですよ。縁もあって初めて人はチャレンジできる。だから今井さん運と縁をものすごく持っています』と。僕が今回箱根駅伝に漕ぎ着けられたのも、やっぱり運だと思います。でも、運を掴むための準備はものすごく丁寧にやったつもりです。本当に徳本さんとの出会いにも感謝しています」

 今井が見せてくれたおみくじには別に、こう書いてあった。

「邪念の入り込む一分の隙も憂いもない」

 もう、失うものはなにもない。

 運と縁、そして泥臭い練習に裏打ちされた今井の「ラストラン」はもうそこまで近づいている。

撮影=平松市聖

(#1、#2から続く)

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「箱根駅伝だけで大学入学は踏み出せない」「徳本監督でなければ絶対になかった」31歳今井隆生が明かす“挑戦を決めた”本当の理由

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