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「実力ではなくキャリアに注目されている」「『若いから箱根駅伝には価値がある』という意見もあった」31歳大学生ランナーが葛藤した“挑戦の2年間”
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2022/01/01 17:04
「31歳の体育教師ランナー」。異色の挑戦を続ける中で、駿河台大・今井隆生が戦ってきた葛藤とは?
「僕の実力にメディアが付いてきているのではなくて、僕のキャリアに注目されているという。そこに対する葛藤はすごくありました。誰だってスポットライトを浴びたいじゃないですか。『何であいつだけ』って周りから思われている時期も絶対にあったと思います」
多くの学生ランナーが幼少期から箱根駅伝を目指す中、30歳を過ぎ、なおかつ2年限定での今井の挑戦は、例のない形と言える。SNSでは、かつてない今井の挑戦を好意的に受け止める声が大半を占めていた一方、批判的な声もちらほらと寄せられていた。
「区間記録を塗り替えるという意味で、箱根駅伝の歴史を変えるのならかっこいいですけれど、僕の場合はまた違うじゃないですか。『若いやつが走るからこそ(箱根駅伝には)価値がある』という意見もありましたね。今でこそ7、8割くらい良く映っているのかもしれないですけれど、どう見られるのか分からない不安はありました」
カメラの前では気丈に振る舞っていた今井だが、キャリアへの注目に違和感を覚え、一時は「メディアの取材を断ろうと思った」と明かす。それでも今井が取材を受け続けたのは、徳本一善監督の「オファーされた取材は全部受けろ」という方針ゆえだった。
「自分が新しいことに挑戦するなら発信しないと何も変わらない、と言われました。僕がやってきたことはある意味、今回の箱根駅伝で『バズる』と思うんですよ。自分が脚光を浴びることで、新しいセカンドキャリアの在り方とか、これまでの固定観念を変えられるのではないかと思うことにしました」
今井の不調を救ったのも、また徳本監督の言葉だった。11月にあった箱根の山を走る「激坂最速王決定戦」でも、学生ランナーの中で今井は全体36位と苦戦。不調が続く中、箱根メンバーに入るための「ラストチャンス」として臨んだのが12月4日の日体大記録会だった。
「何も意識せずに走ろう」自分の走りを取り戻した瞬間
「もう4日のレースがダメだったら、俺はメンバー落ちだなと思ってました。そんな時に徳本さんから『何も考えるな』と言われて。じゃあもう何も意識せずに走ろうと思ったら、激坂王の3日後にあった2000mの練習で、今まで走ったことのないタイムで4本走れたんですよ。そこから動きがちょっとずつ戻ってきた感じです。
思えば、特に予選会なんて走りながら順位のこととかめちゃめちゃ考えてましたね。意識の積み重ねがすごくストレスになってたんだと思います」
日体大記録会では10000mで29分36秒。自己ベストまで10秒に迫る快走だった。8年前に卒業した母校での復調に、運命を感じられずにはいられなかったという。
「ああ、最後戻るところに帰ってきたなって。すごく特別な気持ちでした」