- #1
- #2
Number ExBACK NUMBER
「フライングしたら税金も払えない」賞金1億円をかけた0.01秒のスタート…最強ボートレーサー峰竜太が明かす“覚悟と重圧”
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byJapan Motor Boat Racing Association
posted2021/12/10 17:02
現在、ボートレース界最強レーサーと称される峰竜太。2年連続3度目の賞金王を目指し、14日から開催されるグランプリ「賞金王決定戦」に出場する
「やっと終わった……」SG優勝時に見せる涙の理由
カメラを向けられるたびに得意の“アロハポーズ”を決め、明るい笑顔を振りまく峰。一方で、SGをはじめとした節目の大レースで優勝した際に、顔をくしゃくしゃにして号泣する姿もファンの間ではすっかりおなじみとなっている。
「嬉しさだけじゃ、涙は出ないんですよ。SGで勝ったときは特にそうなんですけど、嬉しいって感情はほとんどないんです。どちらかと言うと『やっと終わった……』みたいな安堵のほうが大きいですね。自分の涙は、プレッシャーからきている部分もあると思います。ボートレースはほんの少しのミスが負けにつながる競技。フライングや落水のリスクもありますし、どんなに有利な状況でも『勝って当たり前』じゃないんです」
フライングを切ると、その選手が絡む舟券は購入者に全額返還される。結果としてレースの売上が激減するため、選手には厳しい罰則が設けられている。特にSGの優勝戦でのフライングには「1年間のSG出場停止と半年間のGⅠ・GⅡ出場停止」という措置がとられることもあって、選手たちは細心の注意を払いつつ、同時にレースに勝利するためにギリギリのスタートを切らなければならない。
「昨年の賞金王決定戦で優勝したときに0.01秒のスタートを切ったんですけど、もしあれがフライングだったら翌年のSGすべてに出場できなくなっていました。そうなると税金も払えないくらいの大赤字です。賞金の1億円を獲得できるか、数千万円の赤字になるか。それが0コンマ何秒の間で揺れている。やっぱり心は削られますよ」
精神的な負荷はそういったリスクによるものだけではない。日に日に高まる周囲の期待に応えるべく、峰は常に「実力以上の成績を出し続ける」という難題を自らに課してきた。
「100の実力で120の結果を出すために、“終わり”を決めてブーストをかけるようにしたんです。ボートレースは賞金がすごく高いので、悪い言い方をすれば『業界にぶら下がっておく』のが一番賢い。ただ僕の場合は、それでは求められているものに応えられない。やっぱり『あと30年ある』と思うよりも、『あと10年だけ』って思っていたほうが頑張れるんですよ。自分はもうそのブーストを使ってしまった。体力的にはまだまだ続けられると思いますが、40歳を過ぎたら身の振り方を考えることになると思います」
ボートレーサーとして頂点を極めるために、さまざまなものを犠牲にしてきたという峰。「レースをしていて、寿命が縮んでいるなと感じるときがあるんです。億単位のお金を稼いで華やかな世界に見えるかもしれませんけど、これをずっと続けるのは不可能だな、と。失っているものは確実にありますね」と率直な心境を明かした。神経をすり減らし、自分の限界を超えるほどの力を尽くしているからこそ、圧倒的な勝率を残すことができているのだろう。<後編に続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。