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侍ジャパン指揮官就任は「それだけはないよ(笑)」栗山英樹新監督が明かしていた“勝ちの逆算”「僕は時間軸をずらすことに成功したのかも」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byAsami Enomoto
posted2021/12/04 17:04
日本ハム監督を退任後、時間を置かずに侍ジャパンの指揮官に就任した栗山英樹新監督
「50代の栗山英樹は存在しなかった」
思い残すことはいくらでもある。悔いのない引き際なんてあり得ないのだろう。栗山が監督に就任した年にファイターズにいて、今シーズンも最後までともに戦ったのは宮西尚生、西川、杉谷拳士、中島、斎藤、谷口雄也の6人。斎藤と谷口が引退し、この10年でチームはガラリと変わった。五十幡亮汰、細川凌平が1、2番を打ち、野村佑希と万波中正がクリーンアップで清宮を挟む。今川優馬がチームを盛り上げ、伊藤大海、吉田輝星、達孝太がエースの座を目指す。そんなチームが勝てないはずはないと、前指揮官は心の底から信じている。
「僕に50代はなかったね。やめるとなったとき、ヨシ(吉村GM)に『栗山英樹に戻っていいですよ』って言われたから(笑)。そのくらい、50代の栗山英樹は存在しなかった。監督になったのは昨日くらいの感覚だし、本当に24時間、365日、チームのこと、選手のこと、勝つことしか考えてこなかったなぁ」
日本代表監督は「それだけはないよ(笑)」
その言葉を裏づけるのが選手たちだ。最後の采配を振るった試合でホームランを打った近藤健介はそのときのバットを手渡した。金子弌大は自分のユニフォームにサインを求めた。最後の登板を終えて笑みを浮かべていた斎藤佑樹は「真剣勝負だからこそ佑樹の持ってるものが引き出されたな、本当によかったぞ」という栗山の言葉を訊いて、溢れる涙を堪えることができなくなった。そして最後の試合を終えた栗山のもとへやってきた宮西の「僕の家には監督のサインがないんで、サインお願いします」という言葉は、栗山を泣かせた。
「今年、あれだけ実績のあるミヤをファームへ落として、勝ちパターンじゃないところで使ったりして、つらい思いをさせたと思う。でもこの10年、本当の優しさは厳しさの中にあるということを何度も思い知らされてきた。こっちがどう思われようが、選手を泣かせようが怒らせようが、それがコイツのためになると思えばとことんやり切ってきた。だからミヤが『監督、サイン下さいよ』って言ってくれたときは本当に涙、出てきたよ。あの言葉は宝物だね」
監督として2度以上のリーグ制覇を果たし、日本一に輝いた日本人は全員、殿堂入りしている。ならば実績ある指揮官に相応しい次の仕事は、2023年のWBCで日本代表を率いること、か。
「それはない、それだけはないよ(笑)」
この人が笑いながら否定するときは額面通りに受け取ることはできない。この国の野球界はまだ栗山英樹を必要としている。日本一の次は日の丸を背負って世界一――どうやら野球の神様には当分、稀代の指揮官を休ませるつもりはないようだ。