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侍ジャパン指揮官就任は「それだけはないよ(笑)」栗山英樹新監督が明かしていた“勝ちの逆算”「僕は時間軸をずらすことに成功したのかも」 

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石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byAsami Enomoto

posted2021/12/04 17:04

侍ジャパン指揮官就任は「それだけはないよ(笑)」栗山英樹新監督が明かしていた“勝ちの逆算”「僕は時間軸をずらすことに成功したのかも」<Number Web> photograph by Asami Enomoto

日本ハム監督を退任後、時間を置かずに侍ジャパンの指揮官に就任した栗山英樹新監督

「普通に考えれば、リーダーとしても選手としても安定感のある20代後半の大引はチームにとって得難い宝物だよ。でも僕だけはみんなが思っていることを思ってない。僕はいずれ中島卓也をショートに据えたいんだ。大引の加入はタクが成長するための大きな要因になるはずだからね」

 栗山が「タク」と呼んでいた中島は、背番号56がやけに大きく感じられる、線の細い選手だった。近視眼的に見れば22歳の中島は代走や守備要員の選手だったが、栗山だけは3年先にショートを守る姿をイメージしていたのである。栗山はこうも話した。

「勝ちの逆算、しっかりできてるな(笑)」

「勝ちたかっただけなんだよ。翔平の二刀流にしても、タクのショートも遥輝の1番も、チームを勝たせなきゃ、意味がない。勝てるチームを作るって、そういうことでしょ。オレ、いいこと言ってるじゃん。勝ちの逆算、しっかりできてるな(笑)」

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 2012年に優勝し、その翌年にはチームをいったんぶっ壊し、再構築して、3年後の2016年に日本一になった。日本シリーズでカープを倒した翌日、栗山に空港で会ったとき、余韻に浸るどころか「もう一回、ぶっ壊すよ、このチームを」と厳しい表情で話していたのを思い出す。大谷はやがてメジャーへ挑戦する、中田や陽岱鋼はFAでチームを去る可能性があった。限られた補強費の中、ジャイアンツやホークスのように3連覇、4連覇を目指すのは現実的でない。3年から4年に一度は優勝するチームを作るのがファイターズの、栗山の目指すところだったのだ。そのために年俸が高い選手を引き留めることはできない。陽岱鋼のあとは西川、中田のあとは清宮幸太郎……これまでもそうやって血の入れ替えをしながら、栗山は勝ちの逆算をしてきた。

清宮はONや清原と並びうる存在だからこそ

 しかし清宮をドラフトで引き当てた2‌01‌7年のオフ、FA権を取得した中田はその年の不振もあって、権利を行使することなくチームに残留した。中田が残ったことは近視眼的に考えればありがたいことだが、中期的視野に立てば望ましいことではなかったはずだ。

 日本一のチームをぶっ壊して2020年の優勝を勝ち取るためには、清宮が気兼ねなく試合に出る土壌を作ることが必要だったのではなかったか。栗山は清宮についてこんな話をしている。

「清宮幸太郎はONとか清原和博とか、そういう存在なんだよ。だから何とかきっかけをつかんでほしくて我慢してきた。幸太郎のためだけじゃない。ファイターズのために、プロ野球のために、これだけはやっておかないといけないことがあったから、絶対に打つと信じて、誰が文句を言おうとやってきたんだ。今の野球、勝つためには長打が必要で、幸太郎にはその能力がある。でも、今の幸太郎は自分の形に迷って行き切れていない。ケガもあったけど、結果が出ないのなら今までのイメージを変えないと前に進まないでしょ。幸太郎は上体の使い方がうまくて柔らかいから、どうしてもそっちに頼っちゃうんだけど、やっぱり脚を使って、どんなボールにも強いスイングができるようにならなくちゃいけないんだよね。それを自分で作り上げるためには幸太郎が迷っていては無理だから……本人がその気にならないと変われない。最後は幸太郎の覚悟しかないんだから」

【次ページ】 「50代の栗山英樹は存在しなかった」

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