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「カミカゼのような選択だ」の声も… 41歳ジェラードがプレミア監督初挑戦で《相思相愛のリバプールとも戦う道》を選んだワケ
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byNeville Williams/Getty Images
posted2021/11/15 11:02
アストンビラの新監督に就任したジェラード。プレミアの舞台でどのような指揮を見せてくれるか
レンジャーズといえば、セルティックと並ぶスコットランドの2大クラブで、これまでに獲得したタイトルは欧州トップの116を数える。しかし2012年に経営難から破産申請を余儀なくされ、チームは4部リーグから出直すことに。2016年夏にプレミアシップへ舞い戻っていたものの、セルティックとの差は大きく、ジェラードの就任時には、その同じ街の宿敵にリーグ7連覇を許していた。ジェラードはそんなグラスゴーの勢力図を塗り替えるという、極めて困難なタスクに挑んだわけだ。
レンジャーズでの采配はリバプールにも通じる
はじめの2シーズンは、その10年間に広がり続けた差を埋めきれず、2位が続いた。それでも、ジェラードは持ち前の飽くなき献身性と優れたリーダーシップでチームを向上させ、3年目の昨季、ついに大きな実りを手にする──無敗かつ史上最速でリーグを制し、セルティックが狙った歴史的な10連覇を阻止したのだ。
ジェラードが統率したレンジャーズには、リバプールにも通じる、彼の特色が如実に現れていた(名将の証のひとつだ)。主に4-3-3を用い、後方から組み立て、両サイドバックは積極的に攻め上がり、得点者はアタッカーだけでなく、多岐にわたる。
守備時には前線からプレスをかけ、中盤は侵入者を厳しく追い回し、最終ラインは堅牢な砦となる──昨季のリーグ総失点13は、次点の半分以下の驚異的な記録だ。またジェームス・タバニアやアルフレド・モレロスら、一度はキャリアが低迷しかけた選手たちを復調させ、リーグ屈指のライトバックとストライカーに変貌させている。
今季、チャンピオンズリーグでは予選3回戦で敗退したものの、プレミアシップではアンジェ・ポステコグルー新監督と古橋亨梧を加えたセルティックを抑え、現在も首位を快走している。それだけに、レンジャーズのファンとしては、ジェラード監督の移籍を複雑な心境で受け止めていることだろう。なかには、裏切られたと感じている人もいるはずだし、元スコットランド代表のチャーリー・ニコラスのように「カミカゼのような選択だ」と公言する人もいる。
盟友キャラガーが新天地でも期待を寄せるワケ
ただし、ジェラードをもっともよく理解する人物のひとり、ジェイミー・キャラガーは「タイミングは最適ではない」としながらも、この移籍は彼にとって正しいものだと考えているようだ。